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幸せって意外と近くにあるもんですね。 5話

いつからこの人のキスをこんなに待ち望むようになったのだろうか? 神林は此上のキスを受け入れ、何度もキスをする。 深くはないキスなのに凄く感じるのだ。 もっと、欲しいとか欲が出てしまいそうだ。 唇が離れて、互いに目が合うと、「何か物足りなさそうだね」と此上に微笑まれた。 そういう顔を自分も出来るのだと神林はつい、笑いそうになる。 「当たりです……でも、我慢します。大人だし、それに寝室で千尋と碧ちゃんが寝てますし」 「なんか……煽り上手になってきたね」 「それは……篤さんのせいですよ?」 「俺がトオルをエロく教育したってわけが」 「そうです!責任取って下さいね」 神林は此上に両手を伸ばして抱き着く。 「俺も強くなりたいって思います」 抱き着いてそう言葉にする神林。 「充分強いと思うけど?」 「まだまだ……ですよ……千尋に比べたら……全て知ってて、それでも前に進もうって凄いです。アイツの境遇考えたらかなり辛いはずなのに……あの頃、何も出来ない自分が嫌でした。何かしてあげれたらなって、おこがましい考えを持ってた、きっと何も出来なかったのに……でも、千尋はちゃんと自分で進もうってしている」 「そうだな……千尋は誰よりも前向きなのかもな」 「だから好きだったのかもしれない……強さがあったから魅力的だったのかも……」 あの頃、彼の容姿だけではなくそういう所にもきっと、惹かれていた。 けれど、ダメージを与えていたのは自分。それは変える事は出来ない事実。 謝るのは違うと思うけれど、あの頃、知っていたら謝ったかな? そしたら余計に傷つける事になる。 知らなくてもいい事があるというのはこういう事かも知れない。 知ってしまっていたら未来は変わっていたかも…… 西島は離れないだろうが、自分は離れてしまいそうだ。 きっと、怖いから。憎まれるんじゃないかって逃げてしまうだろう。それは西島に凄く失礼な事なのに。 「……俺も千尋みたいに強くならなくちゃ」 「……トオルも充分強いよ」 此上は抱きしめたままに神林の頭を撫でる。 「それと千尋、意外と頑固だぞ?今、弱っている原因を未だに言葉にしないし、言わせようと煽っても頑なだからな……小さい頃はまだ言葉に出来てたんだけど、成長と共に頑固になってきた……誰に似たのやら」 「それ、篤さんに似たんでしょ?」 神林は顔を上げて此上に微笑む。 「俺もそう思ってた」 此上も神林に微笑む。 「で、トオルは過去には決着つけれるのかな?」 此上が何を言いたいかは分かる。 「もう、とっくについてますよ……」 「何も告げずに?」 「過去の事を今言っても過去形でしょ?好きでしたって、もう好きじゃないなら言う必要ないと思います」 「……そう?トオルが決着ついてるなら、俺は何も言わない」 「今は前に進む事が大事ですもん。千尋には碧ちゃんがいて、俺には篤さんがいます。それが正解だと思います」 「うん、そうだね」 此上は神林の髪にキスをする。 「ふふ、そうやって篤さんに触れられるの好きです。もっと触って、もっと、キスしてって思います」 「本当、煽り上手になったね」 此上は神林に唇にもキスをした。 ◆◆◆◆◆ ペロペロと舐められる感触で西島は目を開けた。 「ニッシー腹減ったばい」 ペロペロの正体は諭吉の舌だったようだ。 ああ、そうか碧と一緒に眠ってしまったんだと思い出す。 自分に寄り添うように熟睡している碧が視界に入る。相変わらず寝顔が可愛い。 どれくらい眠っていたのだろうと時計を見ると二時間は経過していた。 二時間…… 「お前、二時間しか経ってないのに腹が減るのか?」 諭吉は朝食をちゃんと食べていたのに。 「猫は少しづつしか食べんとばい!」 「いや、ガッツリ食ってた」 「喉も渇いたと!ミルクばくれ!」 「水は?あれ?此上達がいるだろ?」 西島は碧を起こさないようにベッドから降りる。 「さっきまでイチャつきよったけど外に出て行ったばい」 足元で諭吉に言われる。 「イチャつき……あいつら懲りもせずに人の部屋で」 西島は諭吉とキッチンへ。 キッチンは綺麗に片付いている。 外って帰ったのかな? 西島はベランダへ出ると真下の駐車場で此上の車があるかを確認。 車がない……。 じゃあ、帰ったのか……少し寂しい気もするがホッとした。 きっと、此上は探りを入れてくるだろうから。執拗に心を探ろうとしているのが嫌だった。 自分で解決出来る……もう、子供じゃないんだから。 だって……思っていて悩んでいた事を口にしてもそれは実現出来なかったのだから。 家に帰りたい…… 両親に会いたい……、此上が好き。 言葉にしても全て叶えられる事はなかった。 だったら、言葉にしても無駄なんじゃないかって思ってしまうのだ。 今の生活は自分で守れる。だから、大丈夫!!! 「ニッシー、ミルク」 諭吉の言葉で我に返る西島。 「あ、そうだったな」 西島はベランダから戻ると窓を閉めた。

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