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幸せって意外と近くにあるもんですね。 6話

◆◆◆◆ ミルクを器に入れて床に置くと諭吉が待ってました!!と言わんばかりにペロペロ舐める。 西島も冷蔵庫から水が入ったペットボトルを取り出すと諭吉の側にある椅子に座るとその水を飲む。 キッチンも部屋も片付けされている。 此上がやったのかな?とぼんやりと考える。 「なあ、ニッシー身体はもう大丈夫とや?」 「えっ?うん」 熱は多分、微熱。久しぶりに熱を出した。 「心は?」 「えっ?」 西島は諭吉を見る。 「いっぺんにとは言わんけど、心ん中に貯めてるもん少しづつ出せな」 ……本当にこの猫は鋭いというか、なんというか、つい、笑ってしまう。 「諭吉は本当、凄いな」 「今更や?」 顔を上げてドヤ顔。それにも笑う西島。 「俺はね……今の生活にもしもの事があるのが怖いんだよ、続くかも知れない、壊れるかも知れない、それが怖い」 「ありもせんことば悩みよっとや?そげんとは来た時で良かやった、目の前にある幸せば楽しめよ」 「……そうだね。ありもしない事かも知れない……でも、怖いんだ。あの時みたいに突然壊されるのが……あの頃は永遠に続くと思っていたのに壊れた」 幸せは永くは続かないとその時に思い知らされた。 「碧と諭吉とずっと一緒に暮らして行きたい。今はそれだけでいい」 「奇遇やな、ワシも碧とニッシーと一緒に居たいばい」 「ありがとう」 「ニッシー、確かにな、幸せは永遠やない。命の限りがあるけんな……ばってん、幸せって長さやないやろ?どれだけ相手ば大事にして愛したかやろ?ニッシーの親達は一緒におった時、愛してくれたやろ?その時間は短かったかもしれんけど」 確かに諭吉の言う通りにたくさん、愛を貰った。だから余計に辛かった。 「ニッシーはもっと、思っとる言葉ちゃんと言わんばな」 「……言って沢山後悔した事があるからなか?此上に酷いこと言ったし、言いたくない事沢山言ってしまった」 「此上はニッシーの事分かってるみたいやけん、ごめんねって言えばいいだけやないか?」 「ごめんねか……」 考えてみると、此上にごめんねを言った事が少ない事に気付いた。 ごめんねと言う前に此上が西島の機嫌を直してくれるから言うタイミングをいつも逃していた。 「此上……ごめん」 「そう言う事は本人の前で言え」 そう言ったのは諭吉じゃない。此上の声。 驚いて顔を上げた。 そこにはスーパーの袋を持つ此上と神林の2人の姿。 「か、帰ったのかと!!」 慌てる西島。 「買い出し」 此上はスーパーの袋をテーブルに置く。 や、やばい……どこから聞かれていた? 諭吉の言葉は聞かれていないと思うけれど、確実に西島の言葉は聞かれているだろう。 「千尋」 此上が西島の前に立つ。 えーと、どうしよう?逃げたい……。 「トイレ」 立ち上がろうとするのを此上に阻止される。 「なるほど、お前が弱っているのは碧ちゃんか」 その言葉で全て聞かれていたのだと確信した。 「……」 つい、目を見れる俯く西島。 「お前、本当に小さい頃から変わらないな……その確信つかれると目を合わせない癖」 ビクッとなった。……確かに昔っから気まずい時は視線なんせ合わせられなかった。 ずっと一緒に居たんだから見抜かれるのが当たり前。 「どれだけお前と一緒に居たと思ってるんだよ」 頭を撫でられた。 「なんで、碧ちゃんとの事が不安になったんだ?」 「……佐々木が、今、大変そうで。アイツの家も資産家だし、親が色々と反対していたのを知っているし、今回も、もしかしたら斉藤との事で色々あるのかな?とか考えて……そしたら、じゃあ、俺は?って。俺を引き取ったあの人は今まで詮索はして来なかったけれど、男の子と同棲の場合……言ってくるのかな?って思った時に此上に会って、タイミング良すぎて、疑心暗鬼になって」 ようやく、心の中に貯めていた物を言葉にした西島。 「なるほど、俺が探りに来たと心配したわけか」 返事はしなかったが、頷く西島。 「俺は……碧と諭吉との生活を誰にも壊されたくない」 「うん、知ってるよ」 此上はそう言うとまた西島の頭を撫でる。 「やっと、言葉にしてくれたな……良かった。千尋の本音が聞けて」 此上は西島に微笑む。 「俺は千尋と碧ちゃんを引き離したりしない」 「本当に?」 「本当だよ!千尋がちゃんと心から笑ってくれて、楽しんでる。そうしてくれたのは碧ちゃんだからな……2人を引き離す奴がもし現れたら、俺が前みたいに守ってやる」 「此上……」 「約束したろ?千尋がちゃんと笑えるまで側に居るって。守るってさ」 あの流星群が流れる夜に約束をしてくれた。 「だから、千尋は何も心配しなくていい」 まるで小さい子供を諭すように両手を握り微笑む此上。 「うん」 返事を返す西島は小さい頃みたいに可愛く笑った。

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