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幸せって意外と近くにあるもんですね。 7話
西島と此上を見つめる神林。
こういう時はこの2人の間には入れないと思う。でも、それを寂しいとは思わなくなった。
何故なら、それは西島と此上にとっての特別な空間で彼等が過ごしてきた長い時間の中で創られた空間だから。
邪魔をしてもいけないし、壊してもいけない。
神林と此上にも特別な空間が存在する事を知ったからかも知れない。そこには西島は入れない。
互いに持つ特別な空間を大事にしたいと思う。
……そして、思うのは自分と西島の間にも特別な空間はあるのだろうか?
西島が自分を友達だと言ってくれた時は嬉しかった。そう思っててくれていたのかと。
特別な空間があるなら嬉しいなと思う。
「今回は病院は行かなくていいかな?」
「当たり前だろ?もう、なんともない」
「千尋、本当、病院嫌いだよな、子供かよ」
クスクス笑って頭を無でる此上。
「こ、子供じゃないし!」
此上の手を軽く叩き、無でる手を退かす。
「お前の頭無でるの久しぶりなんだからつれなくすんなよ!」
じりじり近付いてくる此上。
「か、神林の頭でも撫でとけよ!」
「トオルは夜に違うとこ撫でまくるからいいんだ」
此上の言葉に想像してしまったのか西島の顔が赤くなる。
「な、何言ってんだよ!ノロケは帰ってからやれよな」
「千尋、ノロケって言うのはな他人に聞かせるからノロケなんだ」
ふふん、と鼻で笑う。
「神林も苦労するな」
神林へと視線を向ける西島。西島から視線を向けられた神林は、「苦労じゃないかな?寧ろ、楽しい」と答えた。
「神林ってドM?」
真顔で聞く西島。
「そうかも」
笑って返す神林。でも、その笑顔が凄く幸せそうで、神林が此上の相手で良かったと思える。
他の奴だったら、どうしただろう?
でも、もう、そういう事は考えなくていい。何も変わらないのだから。
「千尋は今日まで大人しくしてろ、食事や家事は2人でするから」
「えっ?帰っていいのに」
此上の言葉にそう返す西島。
「碧ちゃんとイチャイチャしたいからか?」
「それもある」
「碧ちゃんに無理させるなよ」
その言葉でまた西島が顔を赤くするから此上はまた、嫌がるであろう頭を無でる行為を激しく行う。
ワシャワシャ撫でられ、髪が乱れる。
「こーのーえー!!やめろって!」
必死に抵抗する西島。
神林から見ると仲良しの兄弟みたいで和む。
「篤さん完璧に千尋を玩具にしてますね」
クスクス笑う。
「可愛いんだもんよ!一々赤くなってさ……お前、黙ってればカッコイイ出来る男なのにな」
「な、なんだよ、残念そうに言いやがって!!」
「残念なんだから仕方ない……千尋が変わってなくて俺は嬉しい」
「ちくしょう!馬鹿にしやがって!もう、2人とも帰れ」
西島は立ち上がり、此上の背中を押す。
「家事やってから帰ってやるよ!お前は碧ちゃんのとこ戻りな」
此上はそう言って笑う。
「家事終わったら帰れよ!」
西島は捨て台詞を吐いているくせに素直に碧の居る寝室へと戻る。
「本当、素直なとこも変わってない」
西島が寝室へ戻った後、神林を見て微笑む。
「千尋、篤さんといる時は凄く幼くなるから見ていて楽しいです。もう、会社でも可愛い姿を思い出してはニヤニヤすると思う」
「子供でいてくれて、嬉しいよ。大人になっているとこはちゃんと少しづつ、大人になってくれてるし……こんなに早く言葉にしてくれると思わなかった」
「碧ちゃんの事……」
「昔はかなり時間がかかったんだ。入院もしたし……そこが大人になってくれてて嬉しいよ……千尋の父親にも素直になってくれると嬉しいんだけど」
「……難しそうですね」
「かなりね……千尋にとっては敵だから」
幸せだった時間を奪われたから。彼にとっては敵になってしまっている。
「……俺、1度、会った事あるんですけど、凄く優しそうで千尋に少し似てた」
「優しい人だよ」
此上はそう言って少し寂しそうに笑った。
◆◆◆◆◆
寝室へ諭吉もついてきた。
「ニッシーやれば出来るやん」
「えっ?」
西島は足元の諭吉を見る。
「ためてとったとば、ちゃんと言えたな」
「聞かれてたから……」
「そうやな、鍵開いた音したけんな」
諭吉の言葉でわざと話を振ったのだと知った。
「諭吉、お前!!」
「何や?」
「此上が居たの知ってて」
「おっても、おらんでも、同じ事聞いたばい……結果、言えたんやけん良かやっか……ニッシーはヘタレやけん、きっかけ作らんば言えんやろーが」
そう言われると身も蓋もない。
「隠しとっても何もならんばい、言いたい事は言え!折角、言葉が通じるとやけん」
ちくしょう!!言い返せない。西島は諭吉に返す言葉がなく黙ってしまう。
「此上も神林も良いやつばい、マグロくれるしな」
「そっちかよ」
マグロばっかりだな、コイツは……と笑ってしまう。
「どっちや?」
諭吉の返しに笑って、ベッドへと座る。
碧との生活が邪魔されないように守ると此上は言ってくれた。
彼はいつも、自分の味方で居てくれてた。
嬉しくて、幸せな気持ちになる。
碧の頭を無でると、彼が大きな瞳を開けた。
「ちひろさん……」
名前を呼ばれるだけでもドキドキするし、嬉しい。
「碧」
西島は碧に覆い被さるように彼を抱き締めた。
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