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幸せって意外と近くにあるもんですね。 8話
ぎゅっと碧を抱き締めと彼も西島を抱き締めてくれる。
好きだと言えば、好きだと返してくれる。
こういう事がこんなにも幸せなのだと西島は知った。
キスをして、充分に碧を補充する。
「あ……ちひろさん……神林先生達……まだ、いますよね?」
キスで興奮したのか頬が紅潮した碧。見られるかも知れないと思っているようだ。
「……気になる?」
恥ずかしそうに頷く。
その姿が可愛らしくて襲ってしまいたくなるが、それをやったら碧が嫌がるだろうと我慢。
「後少ししたら帰るって……そしたら碧を抱いていい?」
抱いていい?
その言葉に碧はキャーと騒ぎたくなるくらいに興奮した。
改めて聞かれると興奮してしまう。
「はい……」
ドキドキしながら答える。
「碧と一緒に居ても触り足りない」
西島は碧をぎゅっと抱き締める。
ちひろさん……もしかしなくても甘えてますか?
僕に甘えてくれてますか?
碧は手を西島の頭に乗せると髪を撫でた。
「はい!僕も沢山、ちひろさんに触りたいです。そして、触られたい……」
優しく頭を撫でられる。それが西島には気持ち良くて、居心地が良い。
此上も子供の頃、頭を撫でて抱き締めてくれた。
それが安心出来て寂しさが薄れていく気がした。
◆◆◆◆
家事を終え、帰るよと言いに来た此上は寝室を覗き、声をかけるのを止めた。
イチャついているというより、西島が子供みたいに見えたから。
碧に甘えている子供。それが可愛くて声をかけれなかった。
あーあ、親離れされちゃったかな?
前は甘える相手は必ず自分だった。甘えてくる西島を抱き締めて安心させてあげる。それを大人になるまで繰り返していた。
身体は成長するのに心がまだ子供のままだった。
それを抱きしめるのにも限界がある。
幼い頃から可愛かった西島は成長するにつれて、色気が出てきて、戸惑う事もあった。
それも今となると懐かしい。
「篤さん?」
神林に名前を呼ばれ振り向き微笑む。
「メモ残して帰ろうか……邪魔しちゃ悪い」
「そうですね」
神林も微笑む。
テーブルにメモを置いて、そっと玄関へ。
すると、諭吉が走って来た。
「諭吉、見送り来てくれたのか?ありがとう」
此上は諭吉の頭を撫でる。
「千尋をよろしくな。なんか、お前には色々話してるみたいだから」
買い物から戻ると西島が諭吉相手に話していた。
普段の西島ならば決して言葉にしない事。
「羨ましいな……って思うよ。きっと、お前が猫だからだろうな……愚痴っても黙って聞いてくれるし……反論しないし……俺にももっと言葉にしてくれるといいのにな」
「篤さんも諭吉に愚痴ってますね」
くすくすと笑う神林。
「あ、本当だ」
指摘されて笑う此上。
「諭吉、また来るね。ちゃんとマグロ買ってくるからな」
神林も諭吉を撫でる。
マグロというキーワードにより、「マグロ!!マグロ」と諭吉が騒ぎ出し、神林は慌てて諭吉の口を塞ぎ、「しー!!諭吉、静かに」と小声で注意する。
「本当にマグロ好きなんだな」
此上は諭吉を撫でながら笑う。
神林は諭吉から離れると「またね」と言ってドアを開け、此上と出て行った。
鍵が閉まる音がして、その後にガチャンと金属製のモノが落ちる音がした。
郵便受けに鍵を入れたようだ。
諭吉は玄関からリビングへ戻るとソファーへと飛び乗る。
「本当、人間はめんどくさいばい。直接言えば良かとにな」
諭吉は身体を丸めると目を閉じる。
◆◆◆◆
「篤さん、何か寂しそうな顔してますよ」
助手席の神林にそう言われた。
「千尋が親離れしゃったなって……甘える相手はもう碧ちゃんになってしまったよ」
「まあ、子供は成長しますからね……でも、千尋にはまだ、篤さんは必要だと思いますけどね」
「えっ?」
「まだ、色々と解決していないでしょう?今回は碧ちゃんの事で悩んでたけど、もっと大事な部分が解決してない」
神林が何を言いたいか此上には分かる。
「千尋とお父さんの事……聞いてもいいですか?どうして、千尋を引き取ったのか……絶対に何か理由があったんだって、俺は思うんで」
「トオル……」
此上は少し迷っているようだったが、神林に西島の父親の話をした。
◆◆◆◆
ベッドで碧と抱き合っていた西島だが、喉が渇き2人で飲み物を取りにキッチンへとやってきた。
2人の姿はない。
テーブルの上のメモに碧が気付く。
「此上さん達帰っちゃったんですね」
碧はメモを手にすると西島に渡す。
メモには「冷蔵庫に夜ご飯あるから碧ちゃんと食べる事!それと、具合悪くなったら隠さずに俺かトオルに言う事!」と書かれていた。
「子供かよ……」
ちくしょう、最後まで!!
子供扱いに不満を持つ西島。
「諭吉にマグロばやれって書いてなかか?」
2人の気配に気付いた諭吉がいつの間にか西島の足元にいた。
「残念ながら書いてない!」
ビシッと言う西島。
「ばってんな、また、マグロこうてくるって2人言いよったばい」
「は?」
「玄関まで見送り行ったったい、そん時に言うた」
「また来るつもりかよ」
迷惑そうに言う西島だが、碧の目には嬉しそうに見えて可愛いと思ってしまった。
「此上さん、ちひろさんのお兄さんみたいですよね」
「あんな、めんどくさいお兄さんは要りません!」
「ふふ、でも、優しいです。夜ご飯、ちひろさんが好きそうな料理ですよ?」
冷蔵庫を覗く碧。
西島も冷蔵庫を覗き、……確かに。と思った。
子供の頃から好きな料理が入っているし、コンロの鍋の中身もそうだった。
そりゃ、覚えているよな……俺の好きなモノ。
毎日、ご飯を作ってくれたのは此上。
毎日、勉強を教えてくれたのも此上。
寂しい時も、楽しい時も……ずっと。
「お節介」
そう呟く西島の顔は優しくて可愛かった。
碧はちひろさん可愛い!!!と胸をときめかせて顔を見ていた。
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