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幸せって意外と近くにあるもんですね 9話
◆◆◆◆
ユウちゃん何してんのかな?
斉藤はずっとスマホを眺めて仕事が終わってしまった。
何時もなら会社でも会えるし、部屋に戻っても彼に会える。それが日常だった。
ほんの少し会えないだけで、こんなに寂しくなるんだなあ……とため息。
いつ帰って来るって言ってたっけ?
明日?明後日?
2、3日って言ってたっけ?早く帰って来てよう。
寂しくてどうにかなりそうだ。
恵のマンションの前まで帰ってきて、……やっぱり部屋で佐々木が帰るのを待とうと思い立った斉藤は向きを変える。
ドスンっ、と何かに当たった。
「星夜、どこ行くんだ?」
「めぐちゃん」
ぶつかったのは恵だった。
「んー、帰ろうかと思って」
「えっ?入口は逆だぞ?」
「違う、ユウちゃんの部屋で待つ」
「えっ?もう、帰って来るのか?」
つまらない!と恵は思った。
「まだ、だけど」
「じゃあ、まだ帰らなくていいだろ?」
「ユウちゃんを部屋で待ちたい」
歩き出す星夜を恵は止める。
「1人で待つの寂しいだろ?ほら、夜ご飯どこか食べに行こうか?」
「めぐちゃん……でも」
躊躇する彼を見て、以前は素直に行く!!って言ってくれたのに!!と佐々木へ嫉妬を覚える。
「ご飯くらい付き合えよ、それから送ってあげるから」
恵は星夜の腕を掴み強引に自分の車へと連れて行く。
「本当?後で送ってくれるの?」
「もちろん」
恵は助手席へ星夜を乗せ微笑む。
◆◆◆◆
レストランに着き、テーブルに案内された。
フカフカな椅子に座ると星夜は周りをキョロキョロと見回して、「めぐちゃん、ここ高そう」と呟く。
「気にするな……知り合いの店だ」
「めぐちゃんって本当凄いよね」
星夜はメニューを見て、値段に驚く。
「好きなのいいぞ?俺が出すし」
「……めぐちゃんどれも高いよ!」
「良いって!めぐちゃんを舐めるなよ?ブラックカード」
恵は財布からカードを取り出す。
「めぐちゃんって本当凄いよね、俺とか平凡なリーマンなのに」
「星夜は平凡じゃないぞ?可愛いし、素直だし……ちゃんと働いているだろ?」
「めぐちゃんの方が凄いじゃん!」
「俺は星夜の方が凄いと思うぞ?星夜が可愛くて、可愛くて、どうにかなりそうだからな」
恵はそう言って星夜の頭を撫でる。
「めぐちゃんはブラコン過ぎる」
「星夜はもっとお兄ちゃん大好きでいいんだぞ?」
「めぐちゃん、本当ばか」
くすくすと笑う星夜を見て「やっと、笑ったな……ずっと、元気ない顔してたから」と恵も笑う。
恵の言葉で、彼に心配かけていたんだと、気付く。
「……めぐちゃんごめん……ありがとう」
「何が?」
「俺が元気なさそうに見えたんでしょ?それで、ご飯」
「んー、それもあるけど、星夜とたまには外で飲みたいなあって」
「飲むなら居酒屋とかでいいじゃん!こんな高そうな店」
星夜がそう言った時にウェイターが注文を聞きに来た。
「恵さん、注文」
「愁、オススメでいいよ、あとワイン」
ウェイターは愁だった。たまに手伝いに来ているのだ。
「かしこまり!で、この子が恵さんの溺愛の弟くん?」
愁は星夜を見て微笑む。
「こんばんは」
軽く会釈をする星夜。
「噂は恵さんから聞いてるよ」
「そうなんですか?なんか、恥ずかしい」
星夜は恵に何言ってんの?みたいな目配せをする。
「あんま、星夜見るな!減る」
愁の前に手をかざして、視界を塞ごうとする。
「はいはい、すみません」
愁はくすくす笑って去って行った。
「めぐちゃんが言ってた知り合いって今の人?」
「ん?今の人も知ってるけど、俺が言ってたのはこの店の経営者だよ」
「……本当、めぐちゃんって交友関係凄いよね!」
星夜は感度したように言う。
「そうか?まあ、知り合いだから安くしてくれるだろうから星夜は好きなの食べていいよ」
恵は星夜の髪をクシャクシャと撫でる。
「ありがとうめぐちゃん……碧もこういう所来てたりするのかな?西島部長お金持ちだから」
「碧くん?ふーん、西島部長お金持ちなんだ?部長だから?」
「違うよ、家が金持ちなんだって」
「ああ、そんな感じはするな……スーツとか高級っぽかった……部長ってそんなにお金貰えるのかって思ってたら、そういう事か」
「えっ?部長のスーツって高いの?」
「高いよ」
「見ただけで分かるって凄いね」
「へえ、そうかあ……西島部長ねえ」
恵はさらに西島に興味を持つ。
「言われてみればマンションに住んでるもんな部長。めぐちゃんのマンションくらい高そう」
「彼の持ち物?」
「知らないよ?借りてるのかな?」
凄いな……佐々木のゆうちゃんといい、西島部長といい……あの会社って出来て間もないよな?
金持ちを雇う会社って凄いやん!なんて恵は思う。
「西島部長金持ちならお家継ぐんじゃないの?親の会社とか」
「……えっ?」
「西島部長って長男?」
「そうみたい」
「じゃあ、家どうするんだろ?」
恵の言葉で星夜は色々と不安が過ぎってしまった。
そうだよ、お金持ち……資産家とかじゃん?
どうするんだろ?えっ?あれ?碧は?
お金持ちの家の人って跡取りとか考えるじゃん……
えっ?碧は?
碧は男だから子供は産めないし、結婚すら許してくれないかも知れない。
「碧……」
一気に青ざめてしまった。
「星夜?」
「めぐちゃん、俺、碧が心配」
「はい?」
突然の言葉に恵はキョトンとする。
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