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幸せって意外と近くにあるもんですね 18話
「じゃあ……佐々木は戻って来ないんですか?」
聞きたくない言葉、そうだよ。って答えて欲しくない質問をしてしまった神林。
「多分……」
此上は答えたくないような声で答える。
ああ、やはり。と現実を突きつけられる。
そして、その瞬間、考えた事がもう1つ。
西島がまた悩んで倒れるのじゃないかと言う事。
西島は恐れている。碧と引き離されてしまうんじゃないかと。
佐々木が現に無理矢理、斉藤と引き離されている。それを西島はどう捉えるのだろう?
折角、良くなったのに……。
不安に押し潰されてしまうんじゃないかと思う。
でも、きっと、西島はそんな目には合わない。彼の父親が西島を悲しませるような事をしないのではないかと神林は思うから。
「佐々木……今、何考えてるんだろ?」
「……さあ?俺は今から佐々木の屋敷に行く事になっているから」
「……えっ?」
「千尋の親父さんが呼ばれているんだよ、パーティに」
「えっ……そんな」
これは現実で……もう、どうにも出来ないのだろうか?
斉藤は……どうなってしまうのだろうか?
彼は本当に佐々木を好きで……好きなのに。
こんな形で無理矢理、終わってしまのは切ない。
「トオル、千尋を頼む……アイツ、また、色々と考えそうだから」
此上の言葉にやはり、彼も心配してしまうのだなっと思う。自分と同じようにきっと、西島を心配した。
「わかりました……また、連絡下さい」
「分かった」
電話を切った神林は大きなため息をつく。
もう、どうしようもないのかな?
医務室のドアを開けて中へ入る。
碧がぎゅっと斉藤を抱き締めているのが視界に入った。
斉藤はまだ知らない……佐々木の今の現状を。
知ったらどうするだろうか?
誰か教えてあげるべきなのだろうか?
自分が教えてあげるのは躊躇する。
言えるわけがない……そう、言えない。
◆◆◆◆
「すみません、西島部長……病み上がりなのに」
人事部で頭を下げられる西島。
「いや、それは大丈夫だから」
西島は朝からの電話にまだ困惑したままだった。
朝から会社に呼び出しを受けてしまった。
内容は人事部の佐々木部長が辞めたので手伝って欲しいと。
その言葉に一瞬、頭が真っ白になってしまった。
何で?どーして?
その言葉しか浮かばない。
パニックになりそうだった。
碧には何も言わず「会社に呼び出しされたから先に行く……碧は後からおいで」とだけ伝えて会社へ急いだ。
理由を知りたかった。
彼が自分や神林に何も言わず辞めるはずがないと思ったから。
普段はチャラチャラしてても、肝心な時はキチンとしているから。
そんな大事な事を言わないはずがない。
「佐々木くんが居ないと困る事たくさんあるんですよ」
その言葉に我に返る西島。
「仕事出来るし、信頼も……あと、雰囲気を良くしてくれる」
寂しそうに言う男性スタッフ。
朝から佐々木の話題でざわついていた社内なのだが、誰1人として、怒っている人が居なかった。
寧ろ、心配している人ばかりで彼の人望の厚さが物語った。
西島も良く知っている。
高校の頃からそうだった。
チャラチャラしていたけれど、先生や生徒に人気があった。
「佐々木くんは天然、人たらしだからね」
真後ろで声がして振り向く西島。
「専務」
専務が立っていた。
「彼が抜けた穴は大きいよ、ほんと……」
ため息をつく専務。
「そうですね、彼……仕事出来ますから」
「君もそうだけど……君の仕事の量が増えてしまいそうで、心配だよ……」
「いえ、それは大丈夫です」
「ちょっといい?」
「はい?」
改まったような顔に西島は何かあったのかな?と瞬時に考える。
「西島くん、借りるね」
専務は人事部のスタッフに声をかけて、西島を連れ出す。
「西島くん、佐々木くんが結婚するの知ってる?」
「は?」
専務の言葉に西島は固まった。
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