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幸せって意外と近くにあるもんですね 19話

「……何ですかソレ……」 きっと、声が震えていると自分でも思う。 「ちょっと、小耳に挟んだんだよ……親が決めた相手と結婚して家を継ぐって」 「は?何の冗談ですか?結婚とか……だって、佐々木には」 佐々木には斉藤がいるだろ? そう言いたかった。親が決めた相手……。家を継ぐ。 そのキーワードに目眩がしそうだった。 まるで、現実を突きつけられたような……自分がつい、最近まで恐れていた事を言葉にされた。 恐れていた事を現実にされようとしている人間がいる。 「彼、恋人いるだろ?相手は知らないけれど、楽しそうだったし、幸せそうだった……平成の世の中で家の為に結婚するってまだまだあるんだなって思い知らされた……私の家柄は至って普通だから……その感覚が理解出来ない……貴族とか……合戦時代でもないし、明治とか大正とかの金持ちでもないのに……彼個人の意見や気持ちは無視なのかな?って考えてしまうよ」 専務の言葉に彼がそういう事を一切しない人で相手の気持ちを尊重する人なのだと分かる。 「……佐々木くんの家柄を知っててこっちは雇ったんだ……彼の自信の力と魅力を感じてね。この会社がピンチになったら助けて貰いたいとかそんな考えじゃない……彼を面接して人柄を気に入いった、それだけ……彼は期待以上の成果をあげてくれてるし、こちらとしては佐々木くんが抜けるのは痛手なんだよね」 「……そうですね。みんな、元気ないですし」 人事部はまるで葬式みたいに静かだった。 普段から賑やかってわけではないのだが、佐々木が中心で仲良くやって、楽しそうに見えていた。 「……でね、たった、今……助けて貰いたいとかそういうじゃないとか言った手前……言いにくいんだけどね」 「はい?」 何を言いたいのだろうと西島は次の言葉を待つ。 「あのね、……西島くんに力貸して欲しいんだよ」 「はい?」 「西島くん……嫌かも知れないけど」 「……何ですか?そんな遠回しな言い方しないでハッキリ言って下さいよ」 「西島くん、佐々木くんのとこのパーティ入れるだろ?」 「は?」 「お披露目パーティあるんだよ……でも、うちの会社呼ばれていないんだ……まあ、なんとなく、呼ばれなかった理由は分かるんだけど……西島くんとこの力借りたい」 「…………」 何を言いたいかがやっと分かった。 佐々木の家柄を知っているのなら自分のとこの家柄だって知ってる。 「父の力を借りろと?」 「そうなんだ」 「…………」 どうしようと悩んだ。 「でも、行ってどうしろと?邪魔して来いって?」 専務はニコッと微笑み、「こっちおいで」と西島は無理矢理、専務室へ連れ込んだ。 「西島くん、いい男だから似合うと思うよ」 専務はどこからかスーツを出してきた。 「は?」 何、この展開?とキョトンとしている西島の目の前にスーツを出して「似合う、似合う!メイドinイタリーだよ」とニコッと笑った。 ◆◆◆◆ 「西島くん似合うじゃないか!!」 専務に与えられたスーツを着た西島に拍手を送る専務。 「おお!!似合うな」 新たな声がして振り向くとゾロゾロと上の方々が居た。 なにしているんだ……この人達。と西島は困惑。 「西島くんはモデルやってもいいんじゃないか?」 「色が地味じゃないか?西島くん若いんだからもっと派手な」 「若いから地味な色がいいんだろ?」 わいわいと西島を囲む。 あーあー、何なんだよおおお!! 「じゃあ、西島くんお願いね」 ニコッと専務に微笑まれる。 「拒否権無いって事ですよね?」 無言で微笑む専務が妙に怖い……。 「わかりました!!父に聞いてみます!」 「本当かい?」 ザワと喜ぶ専務達。 「スーツまで用意したくせに……」 ボソッと呟き、西島は携帯を取り出す。 あの人と電話なんて初めてなんだよな……。 って、俺……番号知らなくないか? 西島はミサキにひとまず電話を入れる事にした。 あー、くそ!もう!!ヤケクソ!! 覚悟を決める西島だった。

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