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幸せって意外と近くにあるもんですね 20話
◆◆◆◆◆
「斉藤くん、今日はもう帰った方がいいよ?きっと、仕事にならない」
神林は斉藤の頭を撫でる。
「あの、あの、僕が送っていきます!」
碧が心配そうに言う。
「そうだね、1人で居るよりは誰かと居る方がいい」
神林は斉藤を碧に頼むとタクシーを呼ぶ。
さすがに泣いている彼を普通の交通機関では帰せない。
「千尋には言っておくから」
呼んだタクシーに2人を乗せ、神林はそう言う。
「僕からも言います」
「うん、それじゃあ、斉藤くんをよろしくね。何か分かったら連絡するから」
「はい」
力強く返事をする碧。
見かけ、子供みだがシッカリしている碧が側に居れば斉藤も落ち着くだろう。
神林は2人が乗ったタクシーを見送る。
そして、振り返り固まる。
「千尋……」
入口に西島が立っていた。
「今の碧と斉藤だよな?」
「うん……斉藤くんショック受けてて……泣いて仕事にならないだろうから帰したよ」
碧と一緒というのが気になるが……斉藤のショックは計り知れないだろうから、今回は目をつぶろうと思う西島。
「……それより、お前……なんだよ、その金持ちボンボンみたいな高いスーツは」
西島の着ているスーツをシミジ見つめる。
「……今から佐々木のとこのパーティに乗り込む」
「はい?」
「遅くなるかも知れないから神林に碧を頼もうかと思ってたんだ」
「乗り込むって……えっ?何で?」
「専務とその愉快な上司に頼まれたんだよ……俺も納得いかないしさ」
「それって……邪魔するって事?」
「さあ?俺はパーティに行ってくれって頼まれたから」
「そもそも、パーティに何で常務とか専務行かないんだ?」
「呼ばれていないから」
「へ?じゃあ、千尋、どうやって入るんだよ?そういうとこってちゃんと招待状とかそんなのいるんじゃないのか?」
「……嫌だけど……力借りた」
西島はそれだけ言うと「後で連絡するから」と車に乗り込んだ。
嫌だけど、力借りた?
それはどういう意味だろうと考えたが直ぐに分かった。
彼の父親の事だ。
借りたって事は話したって事かな?
頼ろうとした事を喜ぶべきだろうか?
……神林は此上から聞いた彼の父親の話を思い出す。
ちゃんと話せばいいのに……。
恨まれずに済む。
肉親なのに誤解したままとか……。
でも、それを神林の口から言うのは違う気がして言えない。
西島から聞いてくるなら話も出来るけれど。
でも、きっと、彼は聞かない。
ため息が出る。
佐々木の事も、西島の事も……どうして、こんなに不器用人ばかりなのだろう。
◆◆◆◆
「此上、入口のとこに迎えに行ってくれないか?」
神林の電話を終えた此上に話し掛ける西島の父親。
「えっ?誰をですか?」
「千尋だよ」
「は?」
此上は未だかつてないくらいに驚いてしまった。
「どうして千尋が?」
「さっき、電話があったんだ」
「電話……千尋から?」
「初めてだったよ電話なんて」
そう言って彼は微笑む。
「なんで……?」
「パーティに入り込みたいらしい」
なるほどな……と思った。
あの西島が……。頼み事とはいえ会話をしてくれるのは嬉しい。
「番号良く知ってましたね千尋」
「ミサキから聞いたんだろう」
「ああ……」
ミサキが多分、勘違いして喜んでいるかも知れないと此上は少し笑ってしまった。
「じゃあ、迎えに行ってきます」
此上は笑顔で入口に向かった。
◆◆◆◆
「運転手さん、あのこの信号を右行って貰えますか?」
後部座席の碧は信号を指さす。
「星夜くん、僕、部屋に1度戻って着替え取ってきます」
「えっ?」
斎藤は泣きはらした瞳で碧を見る。
「今日はお泊まり会しましょ?色々話してたら気が紛れますもん」
碧は微笑む。
斉藤を1人には出来ない。こんなに不安そうで……
何も出来ないけれど、側に居る事は出来る。碧はそう思った。
マンションの駐車場へつき「運転手さん、直ぐ戻ります」碧は急いで降りた。
そして、猛ダッシュで部屋へ。
「碧、どげんしたとや?」
玄関で諭吉が出迎えた。
「僕、星夜くんの部屋に泊まりにいくの!」
「野獣の部屋にか?」
「野獣じゃないよ!……佐々木部長が急に辞めちゃって星夜くんが動揺してるの」
碧は着替えやら急いでリュックに詰める。
「何やそれは」
諭吉も一大事に驚く。
「星夜くん泣いてるから1人に出来ないの」
「そうや、やったらワシもいくばい!寂しい時とかモフモフしたもんば触ると良かとばい?」
諭吉の言葉に確かに……と思った。
自分も諭吉には助けられた。西島もそうだ。
「うん!一緒に行こう」
碧は諭吉も連れていく事にした。
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