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幸せって意外と近くにあるもんですね 21話
◆◆◆◆
恵は星夜の会社に来ていた。
愁にはストーカー扱いされたが、車を運転して連れて来てくれた。
まあ、実際は星夜にまたイヤらしい事をしないか見張る為だ。
ちゃんと元気に会社に来たのかが心配だったのだ。
なんせ、昨日から電話や私LINEに応答してくれない。
これは怒っているか失望したか怖がっているか悲しんでいるか……もう、色々考えてたら狂いそうだったのだ。
「恵さんが変な事するから」
自業自得だと愁に言われ、そう思った。
なんせ、本気で無理矢理抱こうとしたから。
佐々木に渡したくない……それだけの感情で無理矢理抱こうとするから人間って怖い……いや、自分が怖い?
反省すべき点はあるのだが、星夜は俺のモノ!!
そう叫びたかった。
「謝るなら早くした方が?」
「わ、分かってる!」
恵は車から降りると会社へと向かい社内へ入るとざわついているのに気付いた。
受付の女性達が「何で、佐々木部長辞めちゃったんだろ?ショックー」と話しているのが耳に入った。
はい?辞めた?
恵は「あの、すみません……その佐々木部長は本当に辞めちゃったんですか?」と女性達の会話に入る。
「えっ?あの、どちら様ですか?佐々木部長を尋ねて?」
「それもありますけど……」
恵が返事を返すともう1人、横に居た女性が「あ、この前の」と恵を思い出してくれた。
「覚えててくれた?西島部長か神林さんいる?」
「えっと、西島部長は外出中で神林さんなら医務室に」
医務室なら分かる。
「ありがとう」
「えっ、ダメですよ!手続きしないと!」
恵は呼び止められる。案外、ちゃんとしているなとちょっと、感心。
「あれ?」
呼び止められたと同時に神林の声が。
ナイスタイミング!!
「神林先生」
「ちょうど良かった!」
神林は恵の肩を掴む。
「えっ?俺に用事だったの?って事は店で働くの考えてくれたんだ?」
ニコッと笑う恵。
受付よ女性が「店?」と興味津々な顔をする。
「違いますから!斉藤君、弟さんの事で」
神林は恵の腕を引っ張り、誰も居ない所へ連れて行く。
「星夜の事って……佐々木部長も関係してる?辞めたって聞いたけど?」
「……聞いたんですか?そうなんです」
「どうして?」
「それはまだ分からなくて」
「星夜も知ってる?」
「はい……仕事にならないだろうから帰しました」
「分かった、ありがとう神林先生!」
恵は神林に礼を言うと会社を出た。
もちろん星夜の所へ行く為に。
そして、愁に電話を入れる。佐々木が辞めた理由を知りたいから。
◆◆◆◆
西島は車を走らせ、教えて貰った場所へと着いた。
案外と近かった。
車を停めると「千尋!」と名前を呼ばれぎょっとする。
此上の声……。
いるよな?いるよね?あの人が居るんだから。
「此上」
此上が自分の方へ歩いて来る。
「……千尋、そのスーツどうした?急いできた割にはキチンとした格好しているな?」
専務達にあれでもない、これでもないと着せ替えさせられたパーティ用のスーツ。
「会社の専務達が……」
「千尋はそうやってると目を引くなやっぱり」
「はい?」
「イケメンって事。似合うぞ」
此上は西島の頭をポンと軽く叩く。
「ちょ!!止めろ!」
ムッとして手を払う。
「ふふ、中、案内してやるよ」
此上は笑って西島の先を歩く。
あーー!!!ちくしょう!此上、絶対に子供扱いだよな?
中学に上がり制服を着た時と高校の時も同じように頭をポンとされて、「似合うよ」と微笑まれた。
全く同じ。
保護者か!お前は!!と後ろ姿に文句を言いたかった。
でも、案内をしてくれたのが此上で少しホッとしている自分もいる。
もし、父親が来たら何を話して良いか分からない。
電話だって、やっとしたのに。
凄く緊張した。
どんな会議よりも緊張したのだ。
きっと、あの人が此上に頼んだのだと分かる。
向こうも会いたくない?
そりゃあさ、話さないし共通の話題もないし。
そもそも……向こうから連絡もして来ないし。
……って、俺、何考えてる?
「千尋?」
此上に名前を呼ばれて、彼との距離が随分離れていると気づく。
少し急ぎ足になる。
「なあ?佐々木に会った?」
西島は此上の横に並び、歩く。
「見ていない」
「このパーティって、佐々木を後継ぎだと公表する為の?それと……婚約」
婚約は嘘であって欲しいと思う。
斉藤は?彼はどうなる?
この前まで、あんなに仲良しでお似合いで……幸せそうだった。
「俺は嫌だ……」
これは本音。
佐々木は斉藤が好き。それは本当だった。
こうやって壊れてしまうのは嫌だ。
だって、……考えたくない。
もし、碧と……こんな風になってしまったら。
自分は逃げる。
碧を連れて……離れたくはないから。
「千尋、また、変な事考えているだろ?」
頭に手を置かれた。
「今は変な事は考えるな」
此上は西島の表情から何を考えているのかを察したようだ。
「此上……」
「お前、素直じゃないけれど分かりやすいから」
此上は頭を軽くポンポンと叩き微笑む。
「こ、子供扱いするなよ!」
ムスッとして、顔を背ける。
「ところで、お前がここに入り込んだ理由って?ただ、様子伺うだけなのか?」
「佐々木と会えたら……自分の意思なのか聞いて欲しいと」
「違うって言われたら?」
此上が質問をした時に進行方向から男性が歩いてくるのが見えた。
どことなく雰囲気が佐々木に似ている年配の男性。
西島は佐々木の父親を見た事が無かった。
結婚式に来ていなかったし、高校時代、佐々木は一人暮らしだったので両親に会った事はない。
でも、雰囲気が似ていて目が離せなかった。
年配の男性が近付いてきて、西島と目が合う。
その瞬間、
「博巳……」
と名前を呼ばれた。
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