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幸せって意外と近くにあるもんですね 22話

「えっ?」 西島は思わず聞き返した。 「……あ、失礼。知り合いに似ていたから」 と西島に男性は微笑んだ。 その微笑みは優しくて穏やかだった。 「知り合いですか?」 「そう……」 男性は此上の存在に気付き。 「ああ、似ているはずだな」 と笑った。 西島は此上とこの男性が知り合いだと瞬時に分かる。 そして、似ている知り合いが誰だかも分かった。 実父だ。 確か、博巳と名前を呼んだ。実父の名前は博巳。 「あの……」 西島はどなたですか?と聞こうと思ったが「君は西島の息子さんだよね?凄く似ている」と聞かれた。 「そうですけど……似てるとは思いませんけど?」 似ているなんて言われたくなかった。 西島の表情がムッとしている事に気付いた男性は「男の子は父親に似ていると言うと怒るよね……親としては嬉しいのだけれど」と穏やかに微笑んだ。 そんな風に微笑まれると調子が狂う。 「父と知り合いなのですか?」 「そうだよ。学生時代、良く一緒に勉強したり遊んだりしたよ」 遊ぶ……勉強……。 全ての大人にも子供時代が当然ある。自分にあったように。けれど、自分の父親の子供時代は想像出来ない。 「なんか、想像出来ない……」 「今の時代みたいな遊びではないけれどね。海外とか良く行ったな」 その言葉に西島は海外とか金持ちかよ!あ、金持ちか……ボンボンかよおお!!と自分もそうなのに他人事のように考えていた。 そして、この人が実父の知り合いというか友達という事は分かった。ではこの人の正体は? 「あの……」 西島が名前を聞こうかと話を切り出した瞬間、「こちらにおいででしたか」と男性が声をかけてきた。 「裕次郎様が」 男性が発した名前に西島はピクンと反応する。 佐々木の下の名前……って事は自分の目の前に居るこの人は佐々木の? 何かを小声で伝えているようで、佐々木の父親と思われる男性の顔色が少し変わったように見える。 「分かった、直ぐ行く」 声をかけてきた男性と一緒に行こうとする彼に「あの、自分、佐々木の……裕次郎君の友人なんです!」と慌てて声をかける。 「えっ?そうなのか?……ああ、同じ歳だって聞いてたな、友人だとは思わなかったけれど」 少し驚いたような顔を見せた。 「裕次郎君に会いに来たんです!彼はどこですか?」 きっと、これはチャンスだ!闇雲に佐々木を探すよりも直接聞く方がいい。こっちの思惑は知られていないのだから。 「……居なくなったらしい」 「えっ?」 驚く西島。 「悪いけど、急ぐので」 佐々木の父親は後から来た男性と共に急ぎ足で去って行った。 佐々木……どこに? 西島はどうしようかと焦る。 「千尋」 此上が彼らが行った方向と逆を指差し行こう!と促す。 「此上……佐々木が……」 どうしよう?探す?でも、どこを?色々と考えながら此上と歩いて行く。 「ねえ、ちょっと!」 歩いていると呼び止められる西島と此上。 「君、西島千尋君だよね?」 呼び止めて来た男性に質問された。 「……そうですけど」 誰だろうと男性を見つめる。 チャラい雰囲気の男性はどこかで見た事があるような? 「昔は美少年って感じで可愛いかったけれど、今はなんか色気でちゃっていい感じだね」 ニコッと笑う男性。そのチャラい言葉に雰囲気は誰かとかぶる。 「あの……」 多分……いや、間違ってはいないだろうが一応、誰かと質問をしようかと西島は声を発する。 「前に1度会った事あるんだよ、高校の文化祭だっけ?君がお姫様をやって、甥の裕次郎が王子をやった劇を見に行ったんだ」 その言葉に西島はうわあああ!!!と叫びたくなった。自分の黒歴史を知っている人がいる!!しかも、覚えている!! そして、やはり佐々木の血縁者だと分かった。 彼は佐々木の叔父だ。 「そして、君は騎士やってたよね?」 佐々木の叔父は此上を見て微笑む。 「はい」 ニコッと微笑み返す此上。 「今も騎士やってるの?」 冗談っぽく笑う佐々木叔父。 「はい、このお姫様は面倒みてあげないと大変なんですよ」 冗談を返す此上。 「此上!!」 お前何言ってんだ!!と西島は名前を呼ぶ。 「色気あるから悪い虫つきそうだね?」 「つきませんし、色気もありません!!」 西島はちょっと怒ったように返す。 「でも、騎士がついてるなら大丈夫だね」 ニコッと西島に微笑む。 ……やっぱり、佐々木の血縁者だ!話を聞かないというか、何か失礼だし。 西島はどうしようもないイライラがどこからか沸いてくる。 「何か用ですか?」 このまま会話を続けるとイライラが爆発しそうで西島は会話を切るべく質問をする。 「ちょっとこっちおいで」 ニコニコしながら西島の手を引っ張る。 「えっ?ちょっと!!」 無理矢理連れて行かれるので、西島はチラリと此上を見る。 助けろ!!目で訴える。 「すみません、うちのお姫様が不安がるので理由言って下さい」 西島を掴む佐々木叔父の腕を掴む。 佐々木叔父は此上に何か耳打ちをする。 「ああ、なるほど」 此上は納得したようで佐々木叔父の手を離す。 「えっ?なに?此上、何だよ?」 西島だけが訳が分からない。 そのまま、連れて行かれる事になる。 ◆◆◆◆◆ 「ちゃんと見張っていろって言っただろ!」 佐々木の父親は数人の男達を叱りつけていた。 「申し訳ありません」 男達はそう謝るしかない。なんせ、部屋に閉じ込めていた筈の佐々木が忽然と消えていたから。 鍵はこちらが持っていたし、部屋は最上階なので窓は開かないような仕組みだから安心していたのだ。 「探しているのですが……」 佐々木父を呼びに来た男性が申し訳なさそうに言う。 「もう、この中には居ないだろうから外だ」 「はい!今、手分けして探しています」 「全く……アイツは……」 佐々木父は怒るというよりため息をつく。 どうやってもこっちの言う通りにはしてくれない息子。 嫌われているとは分かる。 それだけ厳しくしてきたから。 きっと、これからも思い通りにはならないだろう。 ……そう言えば……西島と瓜二つの息子が来ているという事は彼も居るという事になる。 久しく会っていなかったなと、ふと考えてしまった。 そういう事を考えるという事はまだ、余裕があるという事かな?と笑ってしまった佐々木父だった。

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