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幸せって意外と近くにあるもんですね 23話
◆◆◆◆◆
諭吉はリュックの中へ隠れて貰い、着替えを適当に鞄に詰めて碧はタクシーへ戻る。
佐々木と斉藤の愛の巣であるマンションへ着く。
タクシーの中でも今も斉藤は何も話さなかった。ただ、黙って俯いているだけ。
何時もの彼らしくない。
ニコニコ笑う彼しか知らない碧は凄く心配だった。
泊まりに来て良かったかも……って思う。
斉藤から鍵を出して貰ってドアを開ける。
「星夜くん……」
名前を呼んで背中を押す。
「ゆうちゃんが居ない……」
部屋の中が静かで……居心地が悪い気がする。
「中、入ろ?」
碧は斉藤を押して無理矢理中へ入った。
碧は中へ入るとリュックを直ぐに下ろし中から諭吉を出す。
ぴょんと元気良く諭吉が飛び出し斉藤の足元へすり寄る。
「えっ?諭吉……」
「にゃー」
可愛いく鳴く諭吉を撫でる為に斉藤はその場にしゃがむ。
「僕ね、いつも、元気ない時に諭吉に元気貰ってるの……だから、星夜くんも元気出るかな?って」
碧の言葉に「ありがとう……碧。諭吉も……」とお礼を言って靴を脱いだ。
佐々木が居ない部屋がこんなにも広くて寂しいものなのだと知ってしまった。知りたくないのに……知ってしまった。
ポロポロと涙が零れる。
「せ、星夜くん!!」
碧は慌てて斉藤をリビングへ連れて行く。
「れ、冷蔵庫勝手に開けるね」
水か何かないかな?と斉藤をソファーに座らせて冷蔵庫を開ける。
牛乳が目に入った。
あ!!ホットミルク……。
碧が泣いたり不安な時に西島が良くホットミルクを作ってくれて、それを飲むと安心出来た。
碧はカップに牛乳を入れ、レンジで温める。
砂糖……は?
キョロキョロと砂糖を探す。
他所の家を物色するのは気が引けるがここの主は不在だし、斉藤は泣いているしで、自分でやるしかないのだ。
碧がホットミルクを作っている間、諭吉が斉藤の側に寄り添う。
「諭吉……」
名前を呼ぶと諭吉が斉藤の膝に乗り、涙をペロと舐めた。
「ふふ……」
くすぐったくて笑った。
「おう!泣くな!笑った方が幸せるばい」
諭吉は斉藤に話かけるがニャーニャーとしか聞こえない。
「諭吉……慰めてくれてる?」
斉藤は諭吉の頭を撫でる。
ふわふわでモフモフの諭吉を撫でると何故か安心出来た。
「諭吉……モフモフだね」
ぎゅうと抱き締める。
「おう、ワシはモフモフばい!」
諭吉はペロペロと涙を舐める。
「ありがとう諭吉」
小さくて可愛い生き物を抱き締めると少し安心する。凄いなあ……モフモフって。なんて斉藤は考える。
「星夜くん」
名前を呼ばれて顔を上げると目の前にホットミルクが入ったマグカップ。
「僕、これ飲むと落ち着くから」
そして、碧の心配そうな顔。
「ありがとう」
斉藤は受け取ると礼を言う。
「今日は僕が夕飯作るね」
「えっ?」
「哀しい時もねお腹って空くし、お腹減ってたらもっと哀しくなるから」
「碧……」
碧の優しさに星夜は嬉しくなる。友達っていいなって思う。
「ちひろさんみたいに美味しく作れないけれど、星夜くん、何か食べたいモノありますか?」
「……オムライス」
「オムライスですか?」
「うん……食べたい」
手っ取り早く作れて負担がかかりにくい食べ物を選ぶ斉藤。
それに碧がオムライスを好きだと知っている。
「分かりました!オムライスですね!」
碧はよし!やるぞ!!ってシャツの袖を捲り上げる。
「星夜くんは諭吉と遊んでてね」
「うん」
斉藤は膝の上の諭吉の頭を撫でる。
「お前のご主人様って優しいね」
斉藤はそう言いながら諭吉の身体全体を撫でる。
「おお、気持ち良かばい!」
全身を撫でられ諭吉はゴロゴロと喉を鳴らす。
「ふふ、ゴロゴロいってる……気持ちいい?」
諭吉を撫でていると、不思議なくらいに悲しい気持ちが和らいでくる。
「ちょっと元気出たかも……」
優しい友人とモフモフの猫でこんなに癒されるのだなと斉藤は感動した。
◆◆◆◆
西島は建物の裏手に連れて行かれ、倉庫みたいな広い場所をキョロキョロしている。
どこだよ、ここは?
それに何故連れて来られたのかも謎。
「何ですか?ここ?」
「ここ?ビンテージな車が保管してある場所」
佐々木叔父が答える。
「えっ?何でこんな所に?」
広い場所には車は置かれていない。
「この中にあった車は外に出されてる。たまにお披露目というか、売ったり買ったり……まあ、オークション的な?」
「はあ?」
で、何故にここに?
西島は一緒にいる此上を見る。先ほど、佐々木叔父に何か聞いているようだったので理由を知っていそうだ。
「千尋?」
名前を呼ばれた。しかも知っている声。
何もない部屋だがドアはある。そのドアの1つがいつの間にか開いていて、そこから佐々木が顔を出したのだ。
「佐々木!!」
マジか!!じゃあ、連れて来られた理由は?
西島は思わず佐々木叔父を見た。
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