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幸せって意外と近くにあるもんですね 25話
「結婚……星夜は遊びだったって事か?」
事情を知らない恵は怒りを露わにしている。
「親が勝手に決めたんじゃないですかね?」
「星夜を捨てたのには変わりない!迎えに行くぞ」
恵は怒ったまま、愁に車を出すように言う。
嫌がっても無理矢理連れて帰る!!星夜を泣かせる奴は許さない。
やはり、自分が守ってやらないとダメだと思った。
抱いて、忘れさせよう。
恵はそう決意する。
◆◆◆
佐々木を乗せた車は、なんなく外へと出る事が出来た。
居なくなった佐々木を探しているようで手薄だったのだ。
外との連絡が取れない状態だったので、まさか、外から入ってた来た他人の車に乗っているのは思わないのだろう。
「なんか、拍子抜け」
助手席の西島は頬杖をつきながらに言う。
「何が?」
「なんか、こう……もっと苦労するかと思ってさ……なんているの?強そうなボディガードみたいなのが出て来て、それを交わしながら逃げるみたいな?」
西島の発言に此上も後部座席の佐々木も笑いを堪えた。
「千尋、そういう所は子供の頃と変わらないなあ」
此上は西島の頭をポンポンと軽く叩く。
その顔は可愛くてたまらない!!みたいな顔だ。
「何、何?お前って昔っからそんなに可愛かったのか?」
西島と此上の間から身を乗り出す佐々木。
「なに?2人共、馬鹿にしてんのか?」
「してない、してない!可愛いなぁて」
佐々木はニコニコしながら答える。
「その言葉とその馬鹿にしたような顔が馬鹿にしてますって言ってるんだよ!!」
西島はイラッとした顔で佐々木の頭を鷲掴みにすると、グッ!と後ろへ押す。
「千尋、止めなさい!」
此上は子供の喧嘩を止めるような言い方。
それも、何だかカチンとくる西島。
「此上も馬鹿にしてんだろ?お前、元々、ボディガードだったじゃん!佐々木の家にだって居てもおかしくない」
「馬鹿にしてないよ、千尋が言うような事になったら、俺が千尋を守るから大丈夫」
また、此上の手が西島の頭に乗る。
「だから、やめろって!」
西島は此上の手を退ける。
「でも、ありがとう」
じゃれ合う2人に礼を言う佐々木。
「千尋が来てくれて嬉しい」
素直な言葉に西島は思わず後ろを見る。
「どうにかして逃げるつもりだったけど、途方暮れていたのは確かだったし……このまま、星夜に会えないのかな?とかちょっと考えたら怖くなってさ……でも、ヒロ兄が窓から来てくれて、隠れていたら千尋が現れた……なんか、テレビとかで見るヒーローみたいだなって思ったよ」
佐々木の言葉に西島は何って返していいか分からなかった。
専務達に言われなかったら来てないかも知れない……。
学生時代からの友人が不安でどうにかなりそうだったのを知らないままだったかも知れない。
「ありがとうとか言うなよ。専務達に言うべきだよ」
ありがとうとか言われるような事はしていない。専務達の願いを聞き入れた結果だ。
「でも、来てくれたのには変わりないだろ?苦手な親父さんに頼み事までしてくれてさ」
西島が実父と上手くいっていないのをなんとなく知っていた佐々木。
自分もそうだから。
「本当、俺の嫌がる事ばかりしてくるからな、あの人」
そう言う佐々木は寂しそうに見える。
怒っているとかではなく、寂しそうなのだ。
「男親って愛情表現下手だから……きっと、お父さんなりに君を心配していたのだと思うよ……まあ、そういう風に見えないけれどね」
此上の言葉に佐々木はふふっと笑う。
「もう、縁は切ったから」
「寂しいね」
……そうですね。と2人に聞こえない声で呟いた佐々木。
随分昔はもっと、分かり合えた気がする。
小さい頃は遊んでくれた。
良く笑う人だったのに、いつからか、笑わない人になっていった。
仕事がそうさせたのか、それとも、期待に応えない自分がそうさせたのかは分からない。
知ってしまうと怖いかも知れない。もし、自分のせいだったら……。
怖くて考えたくはない。
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