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幸せって意外と近くにあるもんですね 30話
西島にも会話は聞こえていた。
奥に誰が居るって?えっ?斉藤兄?
あのチャラい?
碧も一緒に?…………やばいだろ!!!
自分を見れば仕事に誘ったり、イケメンだよね?ってまるで口説くみたいに話かけてくる兄。
可愛い碧を見たら……?
危ないいいいい!!西島は危険を感じ、慌てて靴を脱いだ。
もちろん、碧を守る為に。
此上もなんとなく、着いていく。西島と碧の保護者として。
◆◆◆◆
恵はどう慰めようか悩んでいる。
碧が居なかったら……即、抱き上げて連れて帰るのに。
そして、部屋に閉じ込めて愛してあげたい。
傷心の星夜を癒せるのはもう自分だけ。
抱いているうちになんとかなりそうじゃないか?
頭の中は星夜を抱く事で埋めつくされている。
愁が最低というのは間違ってはいない事だ。
「恵さん」
愁の声。
えっ?早くないか?今、玄関に行ったのに……と振り返り、固まる。
愁と一緒に佐々木が立っているのだ。
あれ?あれあれ?
結婚するという情報は?
仕事辞めたという情報は?
俺に対する誰かのドッキリ?
恵の頭の中はパニック寸前だった。
「えーと……」
恵は佐々木を見つめて、どうしようか考えを整理している。
碧にしがみつき泣いている星夜はまだ、佐々木に気付かない。
「碧、佐々木が来たばい」
碧も諭吉が声をかけるまで気付かなかった。
諭吉の言葉で顔を上げて佐々木の居るであろう方向を見た。
そこには佐々木が立っていて、嬉しくなった。
そうですよ!佐々木部長は約束破ったりしません!!
「星夜くん、佐々木部長」
泣いている星夜に声をかける。
碧の言葉に直ぐに顔を上げる星夜。
「星夜、ただいま」
佐々木の声……。星夜は声がする方を見る。
ニコッといつも、自分に見せる優しい笑顔の佐々木がそこに居た。
「ゆう……ちゃん……」
既に泣いていたが、また大粒の涙が零れた。
零れた涙は嬉し涙にチェンジしていた。
碧はそっと、星夜から離れた。
「星夜……おいで」
その言葉で星夜は立ち上がり、佐々木の元へ駆け寄って抱き着いた。
「ユウちゃん!ユウちゃん!」
大泣きしながら佐々木にしがみつく。
「星夜」
佐々木も彼をぎゅっと抱き締める。
凄く泣いている。きっと、ずっと泣いていただろう。
それを考えると胸が痛い。
好きな子を泣かせてしまなんて、最低だと思う。
「心配させてごめん」
キツく、キツく抱き締めて謝る。
「ユウちゃんんんん!!!」
星夜は本当に佐々木なのか?夢じゃないのか?と考えていた。
でも、抱き締められる力と声、何よりいつも香る佐々木の香りが本人だと言っている。
ほらね、ユウちゃんは嘘つかない。約束守る人なんだよ。そんなの俺が1番知っている。
星夜は佐々木の背中に両手を回し、彼を確認するかのように力強く抱き締めた。
抱き合う2人を見せつけられている恵。
愁の言う通り、悪者って俺?と泣きそう。
何だよこの茶番は!!!
座っていた恵は立ち上がる。
すると、佐々木と目があった。
ちくしょう、本当、コイツもイケメンな顔しやがってええ!!と恵の感想。
西島や神林とはまた違う感じのイケメン。
一見、チャラそうに見えて……でも、中身は違う。
愁と同じ雰囲気を持つ。
愁にはなんだかんだで、頭が上がらない。
年下のくせに妙に迫力のある説教をしてくるのだ。
そんな雰囲気が似ている佐々木。
瞬時に敵わない相手かもなと感じる。
なにより、大事な義弟が愛している相手。
本気になった相手。
「初めましてお兄さん」
ニコッと微笑む佐々木。
その、笑顔は妙に迫力ある。……こんな笑い方する奴知っている。
愁!!
やっぱ、愁タイプの人間だと確信。
「どうも」
恵は軽く会釈する。
「お兄さんも聞いて欲しいんですが?」
えっ?何を?と恵は思った。
結婚の事?
そもそも、結婚するんじゃなかったのか?と疑問。
「星夜、ちょっと離れて」
佐々木は抱き着く星夜の身体を離すと上着のポケットを探り、ある物を取り出す。
「本当はお前の誕生日にちゃんとした場所で言うつもりだったんだ」
誕生日に何言うつもりだったんだよ?星夜を泣かせる事ならば、俺は許さない!!と恵は思う。
「これ……」
佐々木は星夜の前に小さなケースを出して、中を見せた。
中には指輪が入っている。
「ゆ……びわ?」
星夜はその指輪を見つめている。
「俺がデザインして、知り合いに作って貰ったんだ」
「えっ?」
星夜は佐々木を見る。
「星夜……俺と結婚して下さい」
「!!!!」
その言葉に星夜は完全に固まってしまった。
もちろん、恵も側にいた碧達も。
「俺、今、無職なんだけど……ちゃんと直ぐに職にはつくし、苦労させちゃうかもしれないけれど……でも、絶対に星夜だけは守るから、ずっと側にいるから、だから星夜も俺の側に居て欲しい……いや、居て下さい」
佐々木は星夜の深々と頭を下げる。
星夜はその姿を見て大粒の涙を何個も何個も零す。
声にならない。
嬉しすぎて声が出せないのだ。
ただ、うん、うん!と何度も何度も頷くだけ。
答えはイエス!!それは佐々木にもちゃんと伝わっていて、嬉しそうな顔を見せる。
「せ、星夜くん!良かったですね」
碧もボロボロに泣きながら声をかける。
「信じて良かったですね……やっぱり、佐々木部長は星夜くんの運命の相手なんですよ!」
碧の言葉で目の前で起こっている事が現実だと分かった。
「ユウぢゃん……おで、……男だよ……いいの?お金……もちでもないよ?」
泣いて顔がくしゃくしゃで鼻すすってるから、上手く言葉に出来ない星夜。
「俺は星夜がいい。金は俺の方がない……無職にいつの間にかなってたから」
「いいの?……おで……でいいの?」
「俺が世界一愛しているのは星夜だけだよ?」
その言葉で星夜はまた涙を零して「ユウぢゃあああん」と子供みたいに声を出して泣いた。
そんな星夜をぎゅっと抱き締める佐々木は世界一幸せそうな顔をしている。
恵はその2人をぼんやりと見ている。
ああ、始めったから負けていたのだと敗北を味わった。
この人は大きな覚悟を持っている。
「結婚するって、聞いたのに」
負け犬の遠吠えじゃないけれど、嫌味くらい言わせろと佐々木を見る。
「そんなの、破棄するよ」
ニコッと微笑む佐々木。
「家はいいのかよ?」
「どうなろうが知ったこっちゃないよ、俺は縁を切ったんだから」
「それは星夜の為?」
「2人の為だよ。俺は星夜が居ないと生きていけないから」
……ああ、もう!!
ちくしょう、コイツが顔だけのどうしようもない最低男だったら良かったのに。
そしたら、星夜を奪って逃げた。
無理矢理抱いて忘れさせれたのに。
……敗北。
「おめでとう」
もう、そう言うしかないだろ?
最高のお兄ちゃんでいなければ星夜が本当に自分を嫌ってしまう。
自分だって、星夜が居ないと生きていけないと言うのに。
世の中って不公平。
そう、愚痴るしかないのだ。
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