421 / 526

幸せって意外と近くにあるもんですね 31話

おめでとう……。 恵の言葉に佐々木は「ありがとうございます……弟さんとの結婚祝福してくるんですね」と笑顔を見せた。 祝福しなきゃ……ダメだろう? 覚悟を決めて何もかもを星夜の為に捨てたのだから。 「御両親の方には後で土下座しにいきます。先にお兄さんに報告出来て良かった」 ううっ、頑張って下さいとしか言えなくないか? 「両親はアメリカなので星夜に番号聞いて、報告して下さい」 「はい」 恵は2人の元へ行くと星夜の頭をクシャと撫でると「おめでとう」と言った。 「めぐちゃんんんん」 泣いてくしゃくしゃの顔を上げて恵を見る星夜。 「ありがとうう」 涙も鼻水も凄いなこりゃと、つい笑ってハンカチを差し出した。 「幸せになれよ」 「うん」 ハンカチを受け取り、もう、水分全部出たんじゃないのか?っくらいにまた、涙を零す。 「……帰るよ。また、連絡するから」 「うん」 「じゃあ、佐々木さん、改めて」 恵はペコリと頭を下げると「星夜をよろしくお願いします」と言った。 「こちらこそ……ありがとうございます」 「愁、帰るぞ」 愁をチラリと見ると玄関へ向かった。 愁も、佐々木達に会釈をして恵の後を追った。 星夜は恵の背中を見送りながら、ありがとうめぐちゃんと何度も心の中で呟いていた。 意地悪を言いに来たんだと思ったのに反対もせずに祝福をしてくれた恵。 ずっと、大事にしてくれて、優しかった兄。 意地悪も自分の事を思っての事だと言うのは知っている。知っていたのに余裕がなくて、酷い事を言ったと思う。 後で、ちゃんと謝ろうと思った。 「星夜、手を出して」 佐々木に言われ、彼の前に手を出す。すると、薬指に指輪をはめてくれた。 サイズはピッタリ。 指輪をすると、更に嬉しさが込み上げてきて、涙と鼻水が滝のように落ちてくる。 「あはは、凄いな」 佐々木は恵が渡したハンカチで星夜の顔を拭いた。 「おめでとう星夜くん、佐々木部長」 貰い泣きの碧。 「良かったです……本当に」 「碧ちゃん、星夜と一緒に居てくれてありがとう」 佐々木は碧へ頭を下げる。 「いえ……」 そう言うのが精一杯な碧。 西島は泣いている碧の側へ行くと腕の中へと包み込む。 西島が側へ来て抱き締めてくれるので、彼の腕の中で嬉しくて泣いた。 本当に本当に良かった。 佐々木は星夜の為に何もかもを捨てたのだ。凄い覚悟だと碧にも理解出来る。 愛に生きるって簡単に出来そうで出来ない……。佐々木は凄いって感動した。 「千尋もありがとう……此上さんも」 佐々木は西島と此上に頭を下げる。 「いいよ」 ニコッと微笑む西島。 微笑む西島も佐々木のプロポーズに喜んで祝福しているが驚きの方が遥かに上を行く。 寄り道したい所があるというので言ってみると、元奥さんの所だった。 そこで、元奥さんの仕事を知った。 ジュエリー会社を経営していたのだ。 元奥さんに会っていたのは指輪を頼んでいたからだった。 誕生日に言うつもりだったと言っていた通り、結婚指輪を注文していたのだ。 「男同士でもさ、ケジメって大事だろ?ズルズルと付き合うなんて相手に失礼だ」 指輪を受け取り車に戻ると佐々木は真面目な顔をして言ったのだ。 「星夜は何にも変える事が出来ないくらいに大事な人なんだ……千尋がさ、碧ちゃんの両親に会いに行ったみたいにケジメはつけなきゃって思ったんだ」 「そっか……」 佐々木は普段チャラいから適当に見られるのだけど、肝心な所を押える男だ。 思えば碧との事もそうだ。 碧をいいと言い出したのは佐々木が先だった。 西島が碧を好きだと自覚する前から気付いていたのかも知れない。 策士……この言葉が似合う。 いい意味で謀られたのかも知れない。 ありがとうと言いたいのはこっちかも知れない。 「何かあったら相談してこいよ」 西島は本気でそう言った。 「ありがとう」 「それから、おめでとう」 「ふふ、ありがとう」 「斉藤もおめでとう」 「西島ぶちょおおお」 今の彼は何を言われても泣くみたいで、ボロボロと泣いている。 「お祝いしような」 ニコッと微笑む西島に何度も頷く星夜。 「じゃあ、帰る……改めて、色々とな……今は2人っきりになりたいだろうし」 「うん、本当にありがとう」 佐々木は西島に頭を下げる。 「ニッシー」 足元に諭吉が来た。 「えっ?諭吉?なんで?」 驚く西島。 「斉藤ば慰めよったとさね」 ああ、そうか……笑う西島。 「諭吉もいたのか……ありがとう諭吉。今度マグロあげるから」 「何!!マグロか!!佐々木、お前はいい奴ばい」 佐々木の言葉にマグロ、マグロと騒ぎ出す諭吉。 「こら、諭吉」 感度の場面が一気に笑いに変わった瞬間だった。

ともだちにシェアしよう!