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好きな人を守る騎士になりたいです!3話
「あれ?佐藤、帰ったんじゃ?」
残業で残っていたスタッフでいつも碧を励ましてくれる男性の先輩。
ああ、何て説明しよう……と碧は固まる。
「斉藤くんのお兄さんが面倒を見てくれるって言うから碧くんを迎えに行ってあげたんですよ、友人に頼んで」
と神林がナイスフォロー。
此上がペコリと頭を下げる。もちろん、友人とは此上の事。
「ああ、そう言えば受付に斉藤のお兄さんが来てるって誰か言ってたな……イケメンのお兄さんだから女子スタッフが騒いでた……で、この猫は?」
「あ、あの、諭吉です」
「あ!そうか、見た事あると思ってたんだよ!佐藤の飼い猫だ。可愛いな」
スタッフは猫好きみたいで諭吉の頭を撫でる。
「いいなあ、うち、猫飼いたいんだけどねえ、嫁さんがアナタ、どうせ世話しないでしょ!って言うからさ……あ、オヤツ持ってるんだ、たまに空き地の猫とかにオヤツあげてて」
上着のポケットを探す。
「餌やりって本当はしちゃダメなんだろうけど、お腹空かせてるの見たらあげたくなっちゃうんだよ!あれ?ないなあ?鞄かな?チューブ式のオヤツ持ってたんだけど、マグロの」
マグロ……そのキーワードが出てしまったから碧と神林、此上が一斉に固まる。
「マグロおおお!!まじか、マグロか!!」
諭吉のマグロコールが始まってしまった。
「ゆ、諭吉ダメだよ騒いだら」
焦る碧。
「わあ!すごいなあ!マグロって言ってる、言ってるよね?」
スタッフは自分だけにしか聞こえないかもと碧を見る。
「す、すみません、諭吉、マグロ好きなんです」
謝る碧。騒ぐ諭吉の口を塞ぐ。
「へえ!凄いじゃないか!おいでよ、スタッフもうあまり残ってないし、大丈夫だからさ、マグロあげたい」
「おお!!行くぞ!」
諭吉は碧の手からすり抜けて医務室のドアから出てしまった。
「ゆ、諭吉だめ!!」
慌てる碧。
マグロ食べたさに瞬足で廊下を走る諭吉と追いかける碧。
わーん!もう、諭吉の馬鹿あ!!見つかったら怒られるのにいい。
諭吉はドンドン走って、碧がいる課へと辿り着く。流石、動物、こういう勘は鋭い。
「諭吉、早いなあ!流石猫!」
スタッフも追いつき、碧も追いついた。
「えっ?猫、あれ?碧ちゃん?」
少し残っていたスタッフが諭吉と碧の登場でザワつく。
事情を説明してくれたのは男性スタッフ。
「わあ!諭吉、可愛いねえ」
スタッフ達が諭吉を撫で回す。諭吉は満足そうにゴロゴロと喉を鳴らす。
「わあ!ゴロゴロいってる!人懐っこい子だね。猫って警戒心強いって言わない?」
「す、すみません、諭吉は物怖じしないから」
碧は何故か謝る。
「ああ、飼い主が碧ちゃんだからじゃない?飼い主に似るって言うから」
「そうかもな、佐藤は人懐っこいし、猫みたいに癒し持ってるからな……あ、そうだった、マグロ」
男性スタッフのマグロキーワードで「マグロ、マグロば早う!」と騒ぎ出す。
「えっ?凄い、マグロって言った?」
全員がザワつく。
ああ、諭吉……僕、恥ずかしい。
飼い主に似るっていうなら、僕は食いしん坊って事になっちゃう!僕、食いしん坊じゃないのに。
男性スタッフからオヤツを貰い満足げ。
他のスタッフも猫が食べれそうな物を与えて可愛がっている。
諭吉はたまに会社に来るとは良かかもなあ!美味しいめに合う。と満足していた。
そして、諭吉はピクっと耳を動かす。
「ニッシーの足音するばい」
転がって撫でられていのに、ムクッと起き上がり凄い勢いで部屋を出た。
「ゆ、諭吉だめ!!」
止めるのも聞かずに出て行ってしまったので、慌てて後を追う。
ニッシーはこっちか?
諭吉は角を曲がり、誰かと鉢合わせした。
「ん?猫?」
諭吉と鉢合わせしたのは専務だった。
「君は迷子の子猫ちゃんかな?どうやって入ったの?」
専務はしゃがむと諭吉の頭を撫でる。
「げ、諭吉!」
真後ろから声が。その声の主は西島だった。
専務がしゃがんで何かしていると思って近付くと諭吉が居た。
そうだ、コイツが大人しくしているわけがなかったと……。
「諭吉?福沢諭吉?」
専務は顔を上げて西島を見る。
「猫の名前です」
「へえ、諭吉って言うの?可愛いねえ、諭吉」
専務は猫好きみたいで撫でるのに慣れている。
「前ね猫飼ってたんだ……もう、死んでしまったけれど……諭吉みたいにモフモフしてる子でね。仕事の疲れを癒してくれたよ」
諭吉を撫でながらに言う。
諭吉はすっかり専務に心許したかのようにお腹を見せている。しかも、「もっと、撫でろ」と要求。
声は聞こえないけれど、西島は調子のりやがって!と気が気でない。
「西島くん猫飼ってたんだねえ、ああ、だから早く帰ったりしてたんだね」
碧と出会う前から西島は特別用がない限り真っ直ぐに家に帰るタイプだった。
酒なら家で飲めばいいし、ご飯だって自分で作れる。外食は必要以上にお金が出て行く。貧乏ではないが必要以上に金は出さない主義だ。
「はい」
「いいなあ、西島くんちに遊びに行こうかな?猫いるなら」
「えっ?」
西島は驚く。
「それか、たまに連れてきてくれたらいい」
「は?会社ですよ?」
「えっ?猫出勤禁止っていう決まりないよ?」
「そうですけど」
「前ね、猫連れて来てたスタッフいたよ?ひとり暮らしだから置いておけないって!社長も猫好きでたまに社長室に猫いるよ?」
「えっ?本当ですか?見た事ないですけど?」
西島は何度も社長室に出入りしていたが、見た事がない。
「社長の猫は物凄く警戒心が強い子でね、隠れちゃうんだ」
ああ、だからか……と思った。
でも、猫居たんなら触ってみたかったなあ。なんて猫好きの心が疼く。
「でも、諭吉は触らせてくれるね、いい子だね」
「諭吉、人懐っこい性格なんで」
「西島くんに似てるね」
「は?」
「西島くんもそうじゃないか!新人の頃、1番人懐っこいのは西島くんだった。あと、佐々木くん。他の新人は物怖じして上司には怖がって雑談とかしてくれなかったのに佐々木くんと君はいつも、ニコニコして雑談してくれた。新人にね、怖がられるよりも色々と話してくれた方が嬉しいからね、君もそうだろ?斉藤くんと佐藤くんだっけ?2人の保護者って言われてるって聞いたよ」
クスクス笑う専務。
ああ、その噂……どこまで行ってるんだよおお!!心でシャウトしたい西島。
「諭吉!」
碧の声。
碧は諭吉を見つけて、そして固まる。
ひいいい!!専務、専務がいるうう!!
僕はもう、クビだ!!クビになる!!
だって、会社に猫連れてきたんだもん!!
血の気が引く碧だった。
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