428 / 526

好きな人を守る騎士になりたいです。6話

「待て千尋」 此上に呼び止められる。 「何だよ?」 「お前、諭吉抱えて電車乗るつもりか?車、置いて来てるだろ?」 此上の言葉で車を佐々木の所に置いて来た事を思い出した。 そうだった……借りた車だった。すっかり車の事は忘れていた西島。 「車……どうしよう?取りに行かなきゃな」 「後で俺がマンションまで持っていくよ、とりあえずは借りた車で送って行くから」 此上に借りを作ってしまった。 倒れた時の借りもあるのに……。 「……ありがとう」 素直に礼を言う西島。 「千尋……どーした?お前が素直だと熱あるんじゃないかと心配してしまう」 此上は西島の額を触ろうとする。 「あー!!もう!此上の馬鹿!何で人が素直になればそうやって茶化すんだよ?」 「面白いから」 怒る西島をクスクス笑う此上。 「とにかく、車に行こう……諭吉、目立つ」 「あっ」 言い返そうとした西島だったが諭吉の存在を思い出した。 ◆◆◆◆ 「碧、大丈夫か?」 車の後部座席、碧と並んで座る西島。 「はい」 コクンと頷く。 「専務、怒っていなかったから大丈夫だよ?」 慰めるように頭を撫でる。 「千尋、トオルがあと少しで来るからこのまま、スーパーに寄ってお前んとこで飯食って帰るから」 運転席の此上の言葉に「えー!!送ってくれるだけでいいのに」と不満を言う。 「碧ちゃん慰める時間出来るだろ?飯は俺が作るし、それに人が多い方が楽しいよな?碧ちゃん」 碧に同意を求める此上。この野郎!!と西島は思った。 「はい」 碧がはい。と言うのを予測しての言葉なので、此上は西島を見てニヤリと笑う。 ちくしょうめ!!と悔しい西島。 そんな会話をしていると神林が車へとやって来た。 「この車、高そうだね」 神林は助手席に乗り込みながらに言う。 「ビンテージらしいぞ?」 「へえ、凄いなあ」 「後で返しに行くけどな」 「お金あるとこにはあるんだなあ」 神林は感心している。 「トオル、今日は千尋の部屋で飯食うから」 「えっ?」 神林は思わず後部座席の2人を見る。 その時に碧が泣いていた事に気付く。 さっきまで佐々木と斉藤の事に感動して泣いていたから、それでまだ泣いていると思った神林。 「碧ちゃん、まだ泣いてたの?可愛いねえ」 「いや、違う、諭吉が専務に見つかってビックリしたみたいで」 「えっ?あ、諭吉」 西島の言葉に諭吉を見る。 「専務怒ってたの?」 「いや、無類の猫好きだった、昔飼ってたらしい」 「碧ちゃんは怒られた訳ではない?」 「ない!!緊張したみたいで」 ああ、なるほど!と思った神林。 まだ、入社して間もない新人で専務とかめったに会わないだろう。 緊張しても仕方ないし、ましてや会社に猫を連れて来てしまったという罪悪感もあるのだろう。 驚くよな……。 「そっか、碧ちゃん驚いたんだね」 優しい顔で微笑む。 「はい」 碧は短く返事するのが精一杯だった。 胸がつまっているのだ。 専務に見合いを断った時の西島の言葉。 あの言葉が胸をギュッと優しく包んでくるのだ。きゅん!!と胸が鳴る。 西島を好きになればなるほどに胸のきゅん!は治まらなくなる。 幸せな気持ちにもなるし、元気にもなれる。 今はきゅんと幸せな気持ちが交互に来て言葉が上手く返せない。 西島の手をギュッと握る。 突然、手を握られた西島は驚いて碧を見るが握り返してくれた。 不安で手を握ってきているのだと思っている西島は手を引っ張り、自分の方へ引き寄せた。 「よしよし、大丈夫だよ」 碧の身体を抱き締めて優しく言葉をかける。 「ちひろさん」 名前を口にすると胸がいっぱいになる。 ちひろさん……僕、星夜くんが羨ましいって思ったけど、ちひろさんの言葉を聞いて幸せな気持ちになれました! 僕はいつか、ちゃんとちひろさんと家族になりたい。 星夜くんみたいに……ちゃんと家族に。 心で呟く言葉をいつか、ちゃんと声にしようと碧は思った。

ともだちにシェアしよう!