430 / 526
好きな人を守る騎士になりたいです。8話
◆◆◆
風呂場から聞こえた西島の声。
此上と神林は思わず顔を見合わせた。
風呂場から?
着替えるついでに風呂に入るのか?と此上は立ち上がり、寝室へ。
寝室に行くとベッドに無造作に投げられたスーツが。
高いのに……アイツ。
子供だな……身体は、成長しているのに。
ヤレヤレと西島のスーツと碧のスーツをそれぞれ、ハンガーにかける。
まあ、頼ってくれるのかな?
なんて考えてると「ふふ、千尋、篤さんに甘えているじゃないですか」と神林が寝室に登場した。
「千尋と碧ちゃんの好物作ってあげないとね、お父さん」
からかうように言う神林。
「じゃあ、トオルがお母さんか?」
此上は神林に近付くと腰に手を回す。
「ちょっとお!!ダメですよ、ここ!千尋の寝室」
「寝室じゃなきゃいいのか?」
此上は顔を近付けてくる。
「そうじゃないでしょー!ほら、夕食作りますよ」
近付く顔を手で押し退ける。
「此上、着替え忘れたあ!バスローブだけでいいから持ってきて!」
西島の声かまた聞こえきた。
「アイツ」
「ほら、お父さんじゃないですか?」
神林はクスクス笑う。
「何時までも手がかかる子だよ」
「さっきまで親離れ寂しそうだったのに?」
「こういうとこは大人になって欲しいもんなんだよ、小学生の頃と変わらない」
「ふふ、お風呂から叫んでたんですね、なんか、慣れてるというかいつもやってたみたいに自然だから千尋」
「高校生になっても叫んでたよ、制服脱ぎっぱなしで……キチンとする時はするんだけど、たまに子供みたいになる」
「千尋なりに甘えているんでしょ?」
「そうかな?」
「そうですよ」
神林は此上に微笑む。すると、「スキあり!!」此上は神林にキスをした。
「もう!!どっちが子供ですか!」
呆れるやら、照れるやら……神林は笑ってしまう。
「さて、着替え持っていってくるよ」
此上は神林から離れると着替えを持って風呂場へ。
その間、神林はキッチンへと戻った。
「神林、喉乾いたばい!」
待ち構えたように諭吉が足元へ。
「諭吉、マグロおかわり欲しいの?もう、ないよ?」
「違うばい、水!」
諭吉は水用の器に片足でちょいちょい触る。
「えっ、あっ、もしかして水?」
「そうばい」
神林にはニャーと聞こえ、それはまるで返事をしているように思えた。
水を容器に入れて床に置く。すると、諭吉が水を飲み出す。
「そっか、やっぱり水かあ……諭吉はおりこうさんだね」
神林はしゃがむと頭を撫でる。
「諭吉、千尋は君に色々話してるんだろ?君が話せたらなあ……千尋が思ってる事を聞けるのになあ……でも、本心は聞くの怖いかも」
「何でや?」
「……俺を本当は嫌ってたらどうしようとか……って、えっ?いま、何でって言った?」
神林は驚いて諭吉を見る。
気のせいだろうか?何でや?と聞こえたのだ。だから、思わず言葉にしてしまった。
「大丈夫ばい!ニッシーはアンタを友達と思うとる」
諭吉は神林の手をぺろぺろ舐めた。
今、諭吉が言った事は神林には聞こえなかったけれど、手を舐める諭吉が自分を慰めてくれているんだと思った。
「本当、動物のヒーリング効果って凄いね……癒されるよ」
諭吉の頭を撫でる。
◆◆◆◆
「千尋、着替え置いておくぞ、碧ちゃんの分も」
ドアの向こうから此上の声。
「ありがとう」
素直に返事をする西島。
磨りガラスの向こうに人影が見える。
覗くわけではないが2人仲良く風呂に入っているのだなと微笑ましく思う。
恋人同士なのだが、先程、神林にお父さん扱いされたので、長男と次男が仲良くお風呂に入っている……そんな想像してしまう。
「のぼせる前に上がれよ、夕飯作ってるから」
お父さんみたいな声をかけてしまった。
西島と碧はイヤらしい雰囲気が感じられない。どちらかと言えば……初々しい中学生とかの可愛いカップル。
キスが精一杯な感じ。
いや、もっと幼いかな?小学生?いや、行き過ぎか……
此上は小学生の頃の西島を思い出していた。
女の子みたいな可愛い顔。
可愛かったな……。いつも、泣いては此上の側にベッタリで。
甘えているんですよ!
神林の言葉……。甘えてくれているのかな?
ちゃんと本音を言わないのに。
『俺を見捨てたくせに』
あの時の言葉がまだ、引っかかる。
この意味を知りたいと思うのはダメだろうか?傷をえぐってしまうだろうか?
俺も同じだ……怖くて自分の本音を口に出せない。
こんなんじゃ千尋に信じて貰えないよな。
此上はため息を吐きながら風呂場からキッチンへ移動した。
ともだちにシェアしよう!