453 / 526
臆病者は弱いんじゃなくて優しいのです。 9話
◆◆◆
何コールしても此上が出てくれない。
運転中かな?と思い、神林は1度電話を切ると次は西島に電話をしてみる。
会議だって、こんな時間まではしないだろう。特に碧を気にしていたのだから遅くなるなら電話をしてきそうなのに。
……こちらも出ない。
神林はスマホを見つめて、何かあったのかな?と不安になる。
「ふあ~良か湯ばい」
諭吉は碧と湯船に浸かってオッサンみたいになっている。
「風呂上りは酒飲みたいばい」
「ダメだよ、諭吉。今日は神林先生達居るんだからお利口さんにしててよ」
「ワシはお利口さんばい?だけん、マグロば神林はこうてきたとやろーが」
「そうだけど……まだ、此上さんもちひろさんも帰って来ないし……会議大変なのかな?」
「さあなあ……ワシは分からんし」
「お腹空いてないかな?ちひろさん」
「碧は心配性やなニッシーは大人ばい、腹減ったら自分で何とかするさ」
「そうだけど……いつも、電話くれるのになあ」
碧は何だか心配になってしまった。
神林に言って会社まで迎えに行こうかな?でも、迷惑かな?
色々考えてしまう。
◆◆◆
専務は先にホテルに行き、部屋を取った。
タクシーの後部座席で熟睡中の西島を引き取りに行くと代金を支払う。
「さてと……」
専務が西島を抱えるとタクシーは去って行った。
「軽いよねえ、君は」
ヨイショと西島を肩に担ぐ。
入り口へと歩き出した時に「すみません、千尋返して貰えます?」と真後ろから声がした。
振り返ると背が高くて顔立ちが整った男性が立っていた。
専務はその顔を見て「あ、君……此上くん?」と此上の名前を呼んだ。
「えっ?……そうですけど」
どうして名前を知っているのだろうと困惑する。
「千尋……連れて帰るのでこっちに渡して下さい」
会った事があるかな?と考えながら近付く。
「ふふ、そんな怖い顔しなくても大丈夫だよ?別に彼をどうこうしようとしているわけじゃないから」
ニコッと優しい笑顔を見せると此上へ自ら近付き、西島を渡す。
「こんなに酒に弱いって思わなかったんだよ……それに話してみたかったし仕事抜きで」
此上にお姫様抱っこされている西島の頭を撫でる。
「……彼とは血は繋がっていないけど、叔父の関係になるかな?千尋は知らないけど」
「えっ!!!」
此上は思わず声が大きくなる。
「僕の正体ばらさないでね……口聞いて貰えなくなると寂しいから」
「えっ!ちょっと待ってください……千尋の事初めから知って……」
「会社に入って来た時に気付いたよ、会った事あるのは本当に小さい頃だったし、僕は海外にずっと居たからね、千尋は覚えていないというか知らない」
此上は立ち話も何だから……と彼が取った部屋へと行く事にした。
ともだちにシェアしよう!