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臆病者は弱いんじゃなくて優しいのです。 10話

◆◆◆ 西島をベッドに寝かせると此上は専務の元へ。 「千尋、寝かせてきました」 「お酒弱かったんだね知らなくて」 専務は申し訳なさそうだった。 「いいえ……あの、俺も凄く敵意剥き出しで失礼しました」 此上は深々と頭を下げる。 「いいよ、勘違いされちゃったのはこっちだもんね、誘拐かもしくはお持ち帰り?って」 クスクス笑う彼は凄く人が良さそうで偉い立場の人なのに偉そうとかそういうのは全く感じられない。 「……思っちゃいました。すみません」 また、頭を下げる此上。 「あはは、正直だね。っていうと過去にもあったのかな?お持ち帰りが誘拐か」 「高校生の時にちょっと」 お宅の会社の部長をやっている人ですよ……と付け加えたかったが黙った。 「千尋綺麗だからね。小さい時は女の子みたいだったし」 「あの……えっと」 「テルでいいよ、輝って書くんだけどね専務とか堅苦しいし、君は会社の人間ではないしね」 「では輝さん」 「はい。よろしく」 名前を呼ばれた専務は笑顔で答える。 「千尋のボディガードだよね?」 「はい……連絡取り合っているんですか?義父と」 「兄かい?こっちに帰ってきてからは連絡しているよ……千尋を渡したと聞いた時は驚いた……兄は凄く可愛がっていたから」 「そうですね……千尋を見ていたら分かります。愛情を貰って育った子供だって」 「……千尋の実父と約束したんだってね……二度と会わないって」 「そうですね、そうしなきゃダメだったから」 「……後から僕も聞いたよ。力にはなれなかったけど……僕もまだ平社員だったし、海外に住んでいたし……自分の生活で精一杯だった」 「大人の事情で幼い千尋は振りまわされて傷ついて……泣いてばかりでした」 「そうだよね……」 「輝さんは千尋に話さないつもりですか?」 「えっ?僕の正体?」 専務は戸惑った顔を見せる。 「千尋、気付いていないんですよね?」 「そうだね、名字違うしね……僕の両親は離婚してて、兄は母親と僕は父親に引き取られましたから……でも、ずっと連絡は取っていたよ」 「千尋が輝さんの会社に居るっていうのは知っているんですかね?」 「知ってるよ。たまに写真を隠し撮りして兄や義姉に送ってる……それと、千尋の様子もね」 「そうですか……会いたいでしょうね」 「会いたがっているよ」 寂しそうに答える彼をみて此上も寂しくなる。 離れ離れになってしまった家族。 遠くからこうやって愛情を注いでいる。 西島はその事に気付かない。それも切ない。 「いま……どこにいるんですか?千尋には言わないので教えてください!」 此上は頭を下げた。 いつか、探し出そうと思っていた。 一切連絡を取り合わない約束だったのでどこで何をしているか分からなかったのだ。 会いたいだろう。向こうも西島も。 ◆◆◆ 「碧ちゃん、先に食べちゃおう」 神林は時計を気にしながら碧に言う。 「……ちひろさん迎えに行きたいです」 神林を大きな瞳で見つめる。 訴えるような大きな瞳。しかも心配なのだろう……潤んでいる。 どうしよう?と悩んだ。 とりあえずは此上にまた連絡してみよう!!と碧に「篤さんに電話して、会社に寄って貰うように言うから」と提案してみた。

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