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諭吉3話

そうだ、言われてたんだ。  でもでも、恥ずかしさでその時の記憶が霞んでしまっていたのだ。 「すす、すみません」 頭下げたいけど、下げれない状態で碧は謝る。 「打ち身だけどさ、頭って怖いんだよ碧ちゃん、」 神林は治療しながら言う。 「すすす、すみません、あの、なんか、忘れてて、あの、」 かなり動揺している碧は自分で何を言っているのか分からない。  「うんうん、碧ちゃんがものすごーくテンパっているのは凄く伝わっているよ」 と佐々木のフォロー。 「それとさっきの書類、一カ所間違いがあったぞ」 西島からの指摘に碧はギョッとする!確認したのに……なんて思っても、間違っていたのだから慌ててしまう。 「えっ、ええっ!すみません!すぐに、直ぐになおしまっす」 立ちあがろとするのを神林に止められ、  「動かない」 と叱られた。 「西島ちゃ~ん休憩中に仕事の話はするなよ、嫌な上司にランクインするぞ」 佐々木の突っ込みに、  「部下の顔色伺うなら上司の器じゃない」 と冷静に返す。 確かにそうかも。  碧は西島をかっこいい!と思った。 「はい。治療おしまい。碧ちゃん勿体ないから顔に傷とかつけちゃダメだよ」 「へ?」 「可愛い顔してるんだから大事にしないと。お弁当食べていいよ」 と神林は治療を終える。  しかも、お茶まで出してくれた。 「碧ちゃん、ここ良いでしょ?神ちゃん優しいし、ベッドもお茶もあるし。ご飯食べる時に使ったら良いよ」 と佐々木。  「で、でも」 確かに神林は優しそうだし、ウルサい女子社員も居ない。  でも、医務室だから。  「西島なんてしょっちゅうベッド使ってるし」 「えっ?」 碧は思わず西島を見た。 部長がいつも使う場所? うそ?本当に?  「佐々木余計なことを」 睨む西島。  「いいよ、何時でもおいで」 神林も微笑む。 だから、つい。  「はい」 と返事をした。  だって、西島も居るかも知れない場所だから。 碧は作ったお握りをモソモソ食べ始める。  もきゅもきゅ、とお握りを食べる碧は餌を食べるジャンガリアンハムスターのようで、 野郎3人は一瞬で和むのだった。 **** 「あ~やべっ、碧ちゃん可愛かった」 お握りを食べ終わった碧は書類を書き直すと言って、一足早く戻って行った。 「西島が書類の話しなかったらもうちょい長く碧ちゃんと居れたのによ」 佐々木は不満そうに西島を睨む。 「書類提出期限があるんだよ変態ショタ野郎」 西島も言い返す。 「なんだかんだ言ってお前もさ碧ちゃん可愛いって思ってんだろ?」 「はあ?仲間作ろうとかすんな」 「おや?誰ですかね?朝から碧ちゃんを囲む会に入れなくて拗ねて出て行った人は?」 佐々木は嫌みっぽく言う。 「何の話してんだよ」 「碧ちゃんの飼い猫の話。お前、チラチラ見てただろ?」 佐々木の話がようやく今朝の話だと気付く西島。 「あれは朝からうるせえーって思って見てただけ」 「そうきますか。それにワザワザ俺に碧ちゃんを探させて医務室に連れて来させただろ!」 「それは佐藤が豪快に額を打ったからで、医務室行けと言ったのに行った形跡がしなかったからだろ」 売り言葉に買い言葉とはまさにこの2人の事。 「お前らウルサい!あまり騒ぐと出入り禁止にするぞ」 でも、神林の一言で二人の会話に終止符が打たれた。  ***** 「碧、医務室ちゃんと行ったんだな良かった」 書類を直しに戻ると斉藤が話しかけてきた。 「さっき…治療して貰いました」 「西島部長がさ、碧が医務室にちゃんと行ったか気にしててさ」 「えっ?」 「それと、書類」 斉藤が渡して来たのは、あの書類。  「一カ所、直したって」 碧は慌てて書類をめくる。  「次からはちゃんとチェックするようにって部長が」 碧は申し訳ない気持ちでいっぱいになったけど、同時に嬉しさもこみ上げる。 心配してくれた事。  凄く嬉しい。 猫を見ていた西島の笑顔を思い出し、幸せ気分に浸れた。

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