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諭吉 4話

****** 碧はご機嫌だった。 お昼、西島と一緒に食べれたし、帰りも同じ電車。 別にストーカーしているわけではなく、帰りは本当に偶然だった。 帰り間際、斉藤に呼び止められて立ち話したお陰。 ホームに行くと西島が立っていたのだ。 話掛けるなんて無理だから1両空けて乗り込む。 そして、同じ駅で降りる。 西島は碧に気付かず何時ものようにカツカツ音をさせて歩いて行く。 猫が居る公園の近くになると西島は周りをキョロキョロと見渡し、人が居ないのを確認すると公園へと入って行った。 碧はもちろん、見つからないように隠れていた。 にゃ~ん、  あの猫の鳴き声。 そして、他の子達も西島の近くへとすり寄っている。 西島は他の子達にもご飯を与えていて、あの子たちがまん丸なのは沢山食べているからだと碧は再確認。  あの猫はやっぱり近くまでは来ない。 一定の距離感。  でも、西島は満足げな顔をしている。 猫が食べ終わると、 「またな、にゃんこ」 と挨拶をして帰って行く。 碧は西島が離れて行ったのを確認すると公園へ入った。 猫達は碧を見ると近寄って来るが餌は要求して来ない。 お腹いっぱいのようだ。 猫達を撫でながら、西島がにゃんこと呼ぶ猫がどこに居るか探した。 姿はない。  やっぱり西島にしか懐いていないのかと寂しくなる。 猫達を撫でくりまわし、部屋へ戻ると良いタイミングで携帯が鳴った。 メール受信のようで、差出人は「お父さん」 碧の父親。  件名に、諭吉  と書かれてあって写真が付属されていた。  諭吉の写メ。  「わああっ、ゆきっつあん、可愛い」 送られてきた写メは凄く可愛くて諭吉に会いたくなる。 父親は毎日1枚は諭吉の写メを送ってくれるのだ。  連れて行きたいと騒いだし、引っ越したばかりの頃は毎日電話して諭吉の事を聞いていた。  だから機械おんちな父親は可愛い息子の為に、携帯の扱い方をマスターしたのだ。  しかも、 メールの内容は、  『お父さんはスマホにかえました』 だった。  碧でさえガラゲーなのに。 写メを見ていたら、どうしても諭吉の声が聞きたくなった碧は父親のスマホに電話をかける。 2コールで電話に出てくれた父親。 「碧~写メ見たか、写メ!」 もしもしは省略され、弾んだような父親の声。 「うん。見たよ。諭吉は?」 「おう、待ってろ!ゆきっつあ~ん、碧だぞ碧!」 電話の向こうで叫ぶ父親。 直ぐに、にゃ~ん。って鳴き声が聞こえてきた。 可愛い声に碧も、 「ゆきっつあーん」 電話口で叫ぶ。 『にゃ~ん』 電話の向こうで碧の声に反応する諭吉。 あああっー可愛いーっ! 碧は悶えるのを我慢しながら、 「諭吉、良い子にしてる?寂しくない?」 「にゃ~ん」 その鳴き声は寂しいよ。って聞こえて、胸がキュンとなる。 「分かった!今週末に帰るから」 思わず、そう言ってしまった。 「にゃー」 諭吉が待ってる!そう言った気がした。 って、な訳で碧は実家に里帰り。 JRで2時間。 その後バスに乗り換えて1時間ちょい。 碧の実家は農業を行っていて、広い土地に野菜や果物を作っている。 小さい牧場もあり、ヤギや牛、馬も飼っているのだ。 動物が好きな碧は牛達の世話をするのが大好きで、実家に帰る楽しみのひとつでもある。 「ただいまーっ」 玄関を開けると、 「にゃ~ん」 と諭吉がちょこんと座り碧を出迎えていた。 「ゆきっつあーん!会いたかったあぁ」 碧は荷物をほっぽりだし諭吉を抱き締める。 抱き締めた諭吉は碧の顔にすりりと自分の顔をこすりつけて、  「にゃ~ん」 ともう一度鳴く。 その鳴き声は『おかえり』と聞こえ、碧は、  「ただいま諭吉」 と返す。 「あら、碧」 奥から母親が出て来た。 「また帰って来たとね?そんな頻繁に帰って来るとお金は直ぐに無くなるよ」  母親は呆れ顔。 それもそのはず、先週の土日も碧は帰っていたのだ。 だから金欠なのである。

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