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臆病者は弱いんじゃなくて優しいのです。 16話

碧は嬉しそうに浴槽に入る。 「お風呂、入らなかったの?」 「入りました、諭吉と」 碧は微笑むと西島の膝の上に彼の方を向いて座る。 「諭吉、お前、入ってんじゃん!」 一緒に入ろうとした諭吉を見る西島。 「何回も入ったらダメって誰が決めたとや?」 諭吉は長い尻尾をお湯につけて、パシャパシャやって遊んでいる。 「諭吉、お風呂好きだから」 「オヤジくせえなあ、諭吉は」 「そうばい、ニッシーより年上ばい?こんなプリチーな姿しとるばってんな」 諭吉はピョンと飛び降りると尻尾についた水滴を振って落とし、ドアを開けろとアピール。 話ができて頭が良い諭吉も浴室のドアは開けれない。 碧がドアを開ける。 「2人っきりにしてやるばい!気が利くやろ?」 諭吉は歩いて行った。 「本当、アイツ……」 もちろん西島にも諭吉が言った言葉は聞こえていて、笑ってしまう。 「諭吉もちひろさんが遅かったから心配してたんです」 碧は浴槽に戻ると西島の上に再度座る。 「僕も心配でした」 「電話しとけば良かったな」 西島は碧の身体を引き寄せ、自分の胸元で抱き締める。 「飲み会だったのでしょう?」 「……此上?」 「神林先生が此上さんに電話して」 「ああ、うん、飲み会……」 騙されたのだけれど。と付け加えたかった。 「ちひろさんが飲み会って珍しいです」 「専務の誘いだったから」 専務……あの猫好きの優しい笑顔の人。 「ちひろさん、仲良しですもんね」 「えっ?仲良しか?」 「仲良しですよ……専務さんも良くちひろさんに声かけていますもん!それにちひろさんを見てる時って凄く優しい顔してますよ?此上さんみたいな」 「は?此上?」 あのドSのどこが優しい顔なんだ?と西島は思う。 「専務、そんな顔してる?俺には分からないけれど……新人の頃から何かと声かけてきてはくれてたけど」 「きっと、ちひろさんが仕事できて、素敵な人だって、専務さんは見抜いていたんですよ」 碧は照れる事をズバリと言う。 「そんな事ないよ、佐々木も可愛がってたから……斉藤との事も専務が上を納得させて休みまで取ったから」 「えっ?そうなんですか?」 「うん……ほら、同性婚って一般の男女結婚より世間は厳しいだろ?」 碧もそれは知っている。世間ではほんの一部の人しか理解してくれないという事。 でも、その一部に専務と友達の西島と神林、此上がいる。凄い奇跡だ。 自分だって、家族が理解してくれている。それも奇跡だ。 知らない誰かに酷い事を言われたとしても大事な人達が理解してくれる。それはまるで世界中の人達から祝福されるよりも価値がある。 「碧はちゃんと俺が守るから」 碧の表情から汲み取ったみたいだった。

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