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諭吉6話

碧は西島と家が近かった事、野良に餌を与えていた話や、頭打った事を気に掛けてくれた事、サンドイッチを貰った事、全部話した。 「え~、凄い!良かったね碧ちゃん」 夏は自分の事のように喜んでくれた。 「それに西島さん優しいんだね。猫好きに悪い人は居ないもんね」 夏の言葉に碧はコクコクと頷く。 「この話をね、夏姉ちゃんと諭吉にしたくって」 だから帰ってきた。って言ったら夏に「可愛い」って抱き締められた。 嬉しい話や色んな話全部、諭吉に話したい。 諭吉は碧が3歳の時に母親と散歩した帰り道に付いてきた迷い猫だった。 それからはずっと一緒。 学校での出来事も、友達の悩みも、諭吉に話すと不思議と解決したり、スッキリしたりするのだ。 「西島さんって恋人居るの?」 「えっ?」 ドキンッと碧の心臓は脈打つ。 恋人…。 西島はまだ独身。 でも、恋人は居るかも知れない。 そんな詳しい話を聞かないし、聞く相手も碧には居ない。 今まで恋人という2文字を考えずに来た。 「まだ独身なんだよね?」 その言葉には碧は頷く。 「誰か会社の人に西島さん情報に詳しい人とかは?」 碧はうーんと考えると、 「佐々木部長?」 と名前を上げた。 「その人に聞ける?」 「うっ、わ、わかんない。」 「頑張って聞いてみなよ?気になるでしょ?」 「う、うん」 碧は頷くけれど、きっと聞けないって心で呟く。 そして、ふと気付く、夏は碧が西島を好きだと思っている。 確かに好きだけど、憧れなだけ。 「な、夏姉ちゃん僕の好きは憧れの好きだよ。」 「はいはい、そうね。碧ちゃんは恋愛には奥手だもんね」 夏は碧の頭を撫でる。 「ち、違うもん」 必死に否定すればするほどに夏にニヤニヤされた。 「夏!碧、独り占め禁止」 次男、郁が登場したので碧の恋バナは終了した。 ***** 違うもん、恋とかじゃないもん。 碧はそんなピンク色の自問自答を繰り返しながら、夜になった。 「にゃ~ん」 ベッドに転がる碧の上に諭吉がピョンと飛び乗って来た。 「ゆきっつあん」 碧は諭吉をぎゅっと抱き締めると、 「僕は西島部長の事、憧れてるだけだよね?」 なんて聞いてみる。 「にゃー」 諭吉はフンフンと碧の顔を嗅ぐように近づいてきて、ペロッと舐めてきた。 「ゆきっつあん、僕はね、西島部長と……もっと仲良くなりたいんだ。上がらずに話せたら良いなぁ~て、思う」 「に~」 諭吉は小さく鳴くと胸の上でゴロゴロと喉を鳴らす。 「うん。頑張るよ諭吉」 碧はウトウトしだすと、寝息を立て始めた。 ゴロゴロ喉を鳴らす諭吉は碧の顔をのぞき込むと、 「まだまだ子供ばい……碧は」 そう呟くと諭吉も目を閉じた。 ****** お昼過ぎ、家族全員に見送られて碧は電車に乗った。 発車すると直ぐに携帯がメールを受信。 夏から、 恋人居るか確かめたらメールしてね♪ そんな内容。 だから違うって! 心で否定するも顔が熱い。 違う事を考えようと碧は、何時もの癖で、 「ゆきっつあん、恋じゃないよね?」 と語りかけた。 「にゃ~ん」 へ? 猫の鳴き声が聞こえたような? まさかね? まさかだよね? 碧は自分の荷物を見つめる。 荷物は2つ。 抱き枕が入った袋と碧が持って来た旅行用の鞄。 恐る恐る、抱き枕の方を見るが、枕だけ。 ちょっとホッとした。 じゃあ、鞄……、ファスナーを開けて、ギョッとなる。 暗い鞄の中に光る2つの目。 「に~」 小さく聞こえた諭吉の声。 うそっーっ! ファスナー半分開けると諭吉のヒクヒク動く鼻先が出てきた。 ゆ、ゆきっつあんーっ! 碧は周りをキョロキョロと見る。 離れた席にお爺さんが座っているだけ。 見つからないかとドキドキしながら乗る羽目になった碧であった。

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