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恋心
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駅構内から出るまで碧は心臓がフル活動しっぱなしで疲れてしまった。
駅から急いで離れるとアパートまで全力疾走!
アパートの誰にも見つからないように用心して部屋に入り鍵を閉めた。
その瞬間、ドッと疲れが出た。
へたり込む碧の耳に、
「にゃ~」
と諭吉の声。
あ、そうだ!出してあげなきゃ!
ファスナーを全開させ、諭吉を鞄から出す。
諭吉は周りをキョロキョロと見回しながらヒクヒクと匂いを嗅いで回る。
「諭吉、僕の部屋だよ」
碧が話かけると振り向き、
「にゃー」
と鳴く。
諭吉はくまなく探検する気のようで、その隙に実家へ電話を入れた。
実家では諭吉が居ないと騒いでいたようで、碧の鞄に入っていたと伝えると、
「じゃあ、次の休みまでそこに置いておけば良いね~諭吉は大人しいからバレないさ」
暢気な母親の言葉にとりあえずは「分かった」と答えた。
電話を切り諭吉を見ると、まだクンクン匂いを嗅いでいる。
一週間近く諭吉と居れるんだあ…ってホンワカと心が温まってきた。
何時も寂しかった部屋が暖かい部屋へと一瞬にして変わったから不思議だ。
あ、トイレとかご飯!
諭吉用のトイレやご飯がない!
トイレ……、あっ、
トイレの代わりになるものがあるのを直ぐに思い出した。
祖母がいつだったか送りつけて来たタライ。
何で送りつけてきたか、未だに不明。
でも、役立つ時が来たのだ!
後はトイレ砂。
キャットフードも!
「諭吉、キャットフードとか買ってくるから大人しくしてるんだよ?」
諭吉に話掛けると、
「にゃー」
と返事をした。
「じゃあ、行ってきます」
碧は行ってきます。と言う言葉を初めてこの部屋で使った。
行ってきます。と言える相手が居るって良いなあ。
碧はご機嫌で部屋を出た。
残された諭吉は、クンクン匂いを嗅ぎながら、
「どっかで魚焼いとるやん、良か匂いばい」
と呟く。
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えへ、
えへへっ、
碧の顔は自然と緩む。
朝、諭吉のプニプニした肉球で起こして貰った。
ご飯も諭吉と一緒に食べて、いってきます!と声を掛けて出て来た。
夕べも諭吉とご飯食べて、シャワー浴びてる時はドアの向こうで待っていてくれて、
ニヤニヤが止まらなかった。
眠るのも一緒。
自立したくて頑張って1人暮らしをしているけど、正直言うと毎日寂しかった。
家族に囲まれてた毎日から、1人ぼっちの日々は辛いものがあったから……でも、それが諭吉という存在で全て消された。
駅につくと、西島を探す碧。
キョロキョロと見渡すと、居た!
自販機で飲み物を買っている西島の姿が碧の大きな瞳に映る。
へへっ、
気付かれないように西島を見ながら電車を待つ。
そして、ふいに夏が「恋人が居ないか確かめて」と言ったのを思い出し、また、顔が熱くなる。
き、聞けるわけない!
碧はブンブンと首を振る。
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「碧、何か良い事でもあった?」
席に着くと斉藤にそう話掛けられた。
「えっ?どうして?」
「めっちゃニコニコしてるから」
「そ、そう?」
碧はそんなにニヤツいているのかと恥ずかしくなる。
「休みで何か楽しい事あったとか?」
「へ?ううん、実家には帰ったけど」
「碧の実家ってどこだっけ?」
「すごい田舎…うち、農業とかしてるから、牛とか馬とか」
「えっ?馬?碧んち馬居るの?」
斉藤は目をキラキラさせて話に食い付いて来た。
「うん、馬は1頭だけ」
「馬、馬に触りたい」
「馬好きなの?」
「めっちゃ好き!なあ、今度碧んち行きたい」
「えっ?」
ちょっと驚いて声をあげる碧。
「だめ?」
大きな声を出した碧に斉藤は頼み込むような顔で聞いてくる。
祖母に友達連れておいでと言われた事が何だか現実になりそうな、そんな流れ。
「うん。いいよ」
返事をすると、斉藤は嬉しそうに、
「絶対だからな!」
と念を押す。
「うん」
社会人になっても友達って出来るものかも知れない。
碧はちょっと嬉しくなった。
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