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恋心4
「ううっ、ごめんなさい」
碧は申し訳なさそうに斉藤に謝る。
彼が探しに来てくれた所までは覚えているのに、我に返ると医務室に居た。
「いいよ、俺も会社サボれてラッキーだもんな」
ニコッと笑う斉藤。
「碧ちゃん微熱だけど、夜上がるかも知れないから薬ね」
神林は碧に薬を渡す。
******
フラフラしながら会社を出る碧と、心配そうに横に着く斎藤。
「碧、そっちは駅」
フラフラ歩く碧をキャッチすると手を上げてタクシーを止めようとする斉藤に、
「僕、歩く」
と元気なく答える。
「ダメだろ、フラフラしてるんだから」
「お金ないもん、歩く」
首を振る碧。
「じゃあ、車で送るから乗りなさい」
ふいに聞こえて来たのは斉藤ではなく、
「えっ?西島部長」
西島。しかも車に乗っている。
「部長、車でしたっけ?」
「神林に借りた」
質問に答える西島。
「ほら、乗りなさい。送るから」
西島に促され、斉藤は、ラッキーとか言いながら車の後部座席のドアを開けた。
きっと、碧だけなら乗れなかっただろう。
斉藤から押されるように碧が先に乗せられ、次に斉藤が乗り込もうとすと、
「お前は戻れ」
と低い声で言われた。
「えっ?でも、碧を送る……」
「私が送るから戻れ」
鋭い視線を投げられ、斉藤は、「はい」と言うしか無かった。
斉藤がドアを閉めたのを確認すると、車は走り出す。
ちぇ、サボれたのにぃ!とむくれる斉藤の肩が誰かに叩かれ振り向く。
「あれ、佐々木部長どうしたんですか?」
振り向くと佐々木が居た。
「西島が碧ちゃん送って行ったのか?」
「はい。神林先生に車借りたみたいですよ」
「ふ~ん」
佐々木は、西島め!と思いながら会社へ戻って行く。
神林から碧の話を聞いて送って行こうと探していたら先を越された。
なんだかんだいって、西島は碧を気に入っている。
佐々木は確信した。
****
ほら、夏姉ちゃんがあまりに部長の事言うから斉藤君が部長に見える……。
ぼんやりした意識の中、碧は西島を斉藤だと思っていた。
後部座席に力なく横になり、目を閉じる。
「佐藤、家どこだ?」
そう聞かれ、碧は、
「公園……」
番地も何もかもすっ飛ばし、その漢字二文字だけを発して眠りについてしまった。
凄い……斉藤君の声も部長に聞こえる。
なんて、完全に勘違いしながら。
「は?公園?」
碧の発した言葉に西島の頭上には沢山のクエスチョンマークが浮かぶ。
公園?
えっ?佐藤は家ないのか?とまで一瞬考えた。
返事がなく、ちらりと後ろを見ると碧が座席で横になって眠っている。
うわーっ、マジか!
人事部に電話して、住所……とか思ったけど、佐々木が脳裏を過ぎる。
アイツの事だから佐藤の家まで押しかけ………、
抱けばこっちのもん!みたいな発言をする野郎と部屋で2人っきりはヤバいだろ?
西島は仕方なく、自分のマンションへ碧を連れて行く事にした。
碧を背負って、マンションのエレベーターに乗る。
軽すぎ!碧を背負った印象。
子供を背負っているみたいに碧は軽い。
部屋へつき、碧を自分のベッドへ降ろす。
ベッドへ降ろされても熟睡してるのか碧は起きる気配がない。
熱がないかと前髪をどかし、額に手を当てた。
熱い。
熱、上がってる。
額から手を離すとアザがまだ残っていた。
机でぶつけたアザ。
ドジっ子って言葉が昔流行ったよな?
なんて思い出し、入社してからの数々の碧のドジっ子振りは見てきた。
それで怒鳴ってきたけど、嫌いとかじゃない。
彼がキチンと社会に適応してくれたらな、なんて思っているのだけど、神林や佐々木にはビクビクしない碧を見ると落ち込んでしまう。
公園のにゃんこが怯えるみたいな仕草とダブるのだ。
「そんなん怖いか?」
なんて眠ってる碧に問い掛けてみる。
もちろん答えるはずもない。
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