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逃げてばかりではダメなのです。5話
諭吉の声が聞こえる。それは本当に嬉しいし、ああっ、彼は話しているのだなと現実じみてとても素敵な出来事だ。
「前から会話っぽいなって思っていたら本当に会話してたんだな、お前と諭吉」
しみじみと此上は言う。
「諭吉、良いタイミングで鳴くしこっちの言うことを全て理解してるから頭のいい子だなって感じてたけど、話せるとまでは思わなかったから正直驚いている」
神林は感動と戸惑いを言葉にした。
「ニッシーはしばらくシカトしとったぞワシを」
「えっ?いや、だって、喋るって思わないだろ?ノイローゼかな?ってさ」
「まあ、良かたいワシは自分の要求が通るけんな」
諭吉はぺろぺろと舌を出して毛繕いを始める。その姿は普通の猫。
本当は普通の猫や犬達も喋れるのだろうか?ただ、声が聞こえないだけで。
3人は同時に似たような考えをしていた。
「諭吉は良い先輩だな、千尋、お前色々と諭吉には相談してるだろ?俺がいるのに」
「は?なんで此上に言うんだよ?」
「昔は話してくれてたのにさあ……そりゃあ、諭吉の方がストレートで凄い指摘してくるけどさ、言い難い事とか」
此上は拗ねたような表情で西島を見ている。
「何、猫に嫉妬してんだよ?」
思わず笑ってしまう西島。
「そりゃ嫉妬するさ俺に言わない事を言ってるんだから、ただでさえツンデレだから……あ、そっか猫もツンデレだから気が合うのか」
此上は妙に一人で納得している。
「誰がツンデレだ!朝飯作る」
「あ、いいよ、千尋、俺が作る」
「へ?何で神林が……いいよ、客なんだし」
「じゃあ、2人で作る?早く出来る」
「野郎2人キッチンは狭い!俺もお前も結構な体格してるだろ?碧ならともかく」
「じゃあ、千尋は碧ちゃんとこ行ってろ」
神林と西島が2人して話合っているのを引き離した。
「悪いな千尋、トオルとイチャイチャできんのは俺だけだからな、お前は愛しい碧ちゃんとイチャイチャしてろ」
「は?」
間に入られた西島はフリーズ。
いや、別にイチャイチャした覚えもないし、そもそもここは俺の部屋……と言いたいがこれ以上騒ぐと碧が起きそうなのでキッチンは2人に譲った。
ソファーに座る。
「なんや、ベッドにいかんとや?まだ起きる時間にはちぃーと早いやろ?」
「今寝ると起きれない」
そう言いながらソファーに寝転ぶ西島。その腹の上にピョンと飛び乗る諭吉。
突然乗られると軽い諭吉でも衝撃がくる。
「お前!突然やめろ」
「そいが猫ばい」
諭吉は西島の腹の上で丸くなる。
「確かに」
西島は笑って諭吉を撫でる。
「ニッシーの周りは能天気ばかりやな、喋っても驚かん」
「そうだな……でも、俺だって相当驚いたんだぞ?」
「フルシカトしとったとにか?」
「気のせいだと思ってたから……根に持ってるな?」
「うんにゃ、覚えとるだけ」
「本当、あーいえばこーいうって言うね!諭吉には負ける」
「年の功ばい若造には負けんぞ!」
「若造言うな!」
「若造やろ?朝から盛って……」
その言葉で西島はみるみる赤くなる。
「照れるとこも若造やな……良か良か、若っかうちは交尾せろ」
「露骨に言うなよ!もう!」
「若いけん盛るっちゃけん良かやっか?此上も盛っとった、多分、ニッシーと碧の発情した声に……ふがっ」
「発情した声とか言うな!」
西島は諭吉の口を塞ぐ。
確かに……やってる時は此上が部屋にいるって忘れてて……声出てたよな?
碧のよがり声も……気をつけよう。
心で反省する西島だった。
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