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逃げてばかりではダメなのです。 6話
◆◆◆◆
「碧起きろ!朝ごはんばい!」
諭吉は碧の上に乗り、ゴロゴロと喉を鳴らしながら前足でふみふみする。
「んー、諭吉……」
碧は目を開けて諭吉を見た。
「おはよ碧」
「おはよ……諭吉」
両手で諭吉を抱き締める。
「僕……いつの間にベッドに?」
西島とお風呂に入った記憶はあるけれど、ベッドに寝た記憶はない。
「ニッシーが運んだとやろ」
あ、そうかちひろさん……。碧は起き上がる。
「碧……あんな、此上と神林にもワシの声が聞こえるとぞ、凄くなかか?」
「えっ?」
碧は一気に目が覚めた。
「声が?此上さんと神林先生にも?」
「そうばい!」
「嘘……本当に?」
碧はみるみる嬉しそうな顔をして、急いでベッドから降りた。
◆◆◆
「碧、おはよう」
起きてきた碧を目ざとく見つけたのは西島。
「ちひろさんおはようございます……あの、僕……寝ちゃって」
諭吉を抱っこしたまま西島の側へ。
「いいんだよ、ほら、先に顔を洗っておいで……諭吉は貰うから」
腕に抱っこされている諭吉を自分の元へ。
「碧ちゃんおはよ」
神林と此上のハモった挨拶が聞こえ、キッチンを見て2人に「おはようございます」と挨拶をして……諭吉からの嬉しい報告を思い出す。
そうだ!声が聞こえるというので嬉しくて急いで来たのに西島の顔を見たらつい……西島優先になってしまった。
諭吉の声が聞こえるんですよね?と言いたいが急いで顔を洗いに行く碧。
どうしても西島の言う事を先にやってしまう自分がいるのだ。
顔を洗って戻って来ると「あの、先生と此上さん!諭吉の声が聞こえるんですか?」と興奮気味に聞いた。
「うん、聞こえるよ」
「本当ですか!!」
凄く、凄く嬉しい。諭吉の声が聞こえる人が他にも居た。なんて、凄い事なのだろう。
朝食を食べながら諭吉の話で盛り上がる。
「猫と話せるっていいね」
と神林に言われて頷く碧。
「僕、嬉しいです……ちひろさんにもおじいちゃんにも声が聞こえたのが凄いって興奮したのに此上さんや先生までも聞こえるって……」
「これからは此上達にもマグロとかおやつば請求できるぞ、嬉しかな」
床に前足をちょんと揃えて座る諭吉は得意げに言う。
「いやいや、マグロの請求は聞こえる以前から伝わってるから!佐々木と斉藤くんにもマグロは伝わってるだろ?」
此上はクスクス笑う。
諭吉との会話が成り立っているのを見ると本当に聞こえるのだと碧は嬉しかった。
◆◆◆
「えへへ、星夜くんと佐々木部長にも諭吉の声が聞こえるといいなあ」
仕事に行く用意をしながら碧は嬉しそうに西島に言う。
「聞こえたら大騒ぎするだろうな」
西島はネクタイを締めながらに言う。
碧はその姿をじっーと見ている。
「どーした?」
視線に気付き声をかける。
「ネクタイ締めるちひろさんカッコイイから好きなんです」
えへへと頬を赤らめる。
「碧……」
思わず顔を近付けてキスをしようとすると「ニッシー遅刻するばい」と足元から諭吉の声。
「本当、ニッシーは発情期のオス猫より凄いばい」
「う、うるさい!」
咳払いをして上着を着た。
諭吉に見送られて出勤。此上と神林は朝食を食べたら自分達の部屋へと帰っていた。
また、きっと2人は来そうだな……なんて考えながら西島は碧と一緒に出勤するのであった。
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