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逃げてばかりではダメなのです。 7話
◆◆◆
「西島くん」
弾むような声で専務が声をかけてきた。
「昨日はごめんね、騙すみたいな感じで飲みに連れて行って」
「専務……あの、自分こそ酔って寝てしまったみたいでかなり失礼な事を」
西島は深々と頭を下げた。
「いいんだよ、此上くんが全部世話してたし」
ううっ、俺はもう此上に頭が上がらなくなるのかな?
なんて心配をしてしまう。
「此上くんカッコイイね!君をしっかりと守ってて女の子ならああいうの好きそうな感じだよね?ほら、なんて言うの騎士とお姫様」
くっ!!また、ここで騎士とお姫様が出た。どうせ、俺が姫なんだろ?
まさかの上司にまでそんな認識されてしまうなんてと西島は泣きたくなった。
同じ男なのだから、お姫様のポジションは嫌だ。
「今度からはちゃんと誘うよ」
ニコニコと笑顔で言われて「お願いします」と言ってしまった。
「本当?嬉しいなあ……あ、今度また諭吉連れてきてよ」
専務は嬉しそうに手を振って去っていった。
彼は親しみやすくて好感がもてる。飲んでいても楽しかった。彼が話題豊富なのも理由のひとつだが、一緒に居て落ち着くというのも理由だった。
懐かしいといか、どこかで会った事があるようなそんな雰囲気があって、楽しかったのだ。だから、余計に酒を飲んであんな失態に……。
また、飲んでもいいなと思った。
その親しみやすさはまさか、自分を育ててくれた父親の弟だとは西島は気付かない。
◆◆◆
「ちひろさん!星夜くんからメールきましたよ」
昼休み、興奮しながら碧は西島に報告する。
何時もの医務室。神林にコーヒーを受け取りながら西島は「親御さんに佐々木会ったのか?」と返す。
「そうです!結婚してもいいって言われたって」
碧は頬を赤くして鼻息荒く興奮している。
「流石、佐々木……斉藤くんの親も上手く懐柔したな」
神林は碧にはココアを作りながらに言う。
「星夜くん、海外で結婚式するそうです!凄いです!カッコイイ」
「まあ、向こうの方がちゃんと出来るからな」
「僕も海外で結婚式とかしてみたいです」
興奮して出た言葉だった。もちろん、深い意味はない。本当に興奮のままの……でも、西島はコーヒーを吹き出しそうになる。
「あつ、」
「わあ!ちひろさん大丈夫ですかあ!」
慌てる碧。
「大丈夫……」
側にきた碧に微笑むと「碧も海外で結婚式やりたい?」と聞く。
その言葉で碧は耳まで赤くして、自分が凄い事を口走ったと気付いた。
「あの、僕……星夜くんが結婚式するっていうから……興奮して」
一所懸命に言葉を探す碧。その姿も可愛い。
西島はコーヒーを机に置くと碧を軽く抱き締めて「碧がもう少し大人になったらちゃんと申し込むから待ってて」と耳元で囁く。
碧はその言葉で一気に力が抜ける。
「わあ!碧!!」
慌てて抱きとめる。
「碧ちゃんどうしたの?」
耳元で囁いた言葉は神林には聞こえていなかったので、具合でも悪くなったのかと慌てる。
西島は碧を抱き上げてベッドに運ぶ。
「千尋が朝から盛るからだな」
ニヤニヤした顔で神林に言われて「うるさい!」と文句を返した。
「大丈夫か?」
碧の頭を撫でる。
「大丈夫じゃないです……心臓止まるかと思いました」
「えっ?心臓!!大丈夫か?」
慌てる西島と神林。
「ち、違います……僕あの……僕もちひろさんのお嫁さんになりたいです!」
西島の腕をガシッと掴み言った。
碧の言葉で神林はあっという間に空気を読んでその場を離れるとカーテンを閉めた。
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