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逃げてばかりではダメなのです。8話

お嫁さんになりたい。 碧はまた自分で凄い事を言っているとは気付いていない。 「碧……」 西島は碧を抱き起こすとそのまま抱き締める。 「なってくれるの?」 耳元で囁く。 「はい!僕、……ちひろさんとずっと一緒に居たい」 碧も西島の背中に両腕を回す。 「俺も同じ気持ちだよ……そうじゃなきゃ碧の両親に挨拶行ったりしないから」 「はい」 西島の腕の中、碧は身をゆだねる。 彼の匂いが好きなのもある。甘い香りがするのだ。 西島は香水つけていないと言うけれど、この甘くて良い香りは何だろう?と思う。 ◆◆◆ 「そいはな、発情期の匂いばい?」 会社が終わり、帰宅して何気に諭吉に話すとそう言われた。 医務室でもっとイチャイチャしたかったけれど、休憩時間が終わってしまって神林に仕事に戻れと言われてイチャイチャタイムは終了したのだ。 斉藤の結婚でつい、感情が高ぶり西島に凄い事を言ってしまったと今更ながら碧は恥ずかしくて死にそうだった。 「碧はニッシーの嫁になりたいとやろ?人間のオスは18から結婚出来るとやろ?いつやったかドラマでみたばい」 「えっ?そうなの?」 碧はスーツをハンガーにかけながら返事をする。 「ばってん、ニッシーはそこら辺クソ真面目やけん碧が成人してからとか言うとぞ?」 「言うって?」 「結婚してくださいやろ?」 けっ、結婚!!! 改めて言われると顔が熱くなる。 医務室ではお嫁さんになりたいとか言ったのに。 「諭吉!どーしよ!僕……恥ずかし事言っちゃったあ」 碧はベッドにダイブして枕に顔を埋めて足をバタバタしている。 ◆◆◆ 「なんか可愛い光景だな」 こっそりと部屋を覗く此上。 「見てんじゃねーよ!」 西島はドアを音を出さずに閉める。 案の定……此上と神林は西島の部屋に来ている。 会社の前で待ち伏せされたのだ。 「諭吉におやついっぱい買った」 ニコニコしながら言われたら断れなくて、それよりも碧が喜んだので仕方なく部屋に招き入れた。 それに……此上の料理が食べたいとか本人には言えない。絶対にからかわれるから。 小さい頃から西島の好きな物を作ってきただけあって味は最高なのだ。 食事を作る条件で部屋に入れた。 そして、諭吉と碧の可愛い会話を覗いていたのだ。 「諭吉、鋭いよな……お前は絶対に成人するまで碧ちゃんにプロポーズしない」 此上に断言されてなんか悔しい。 「悪いかよ!」 「18から結婚出来るって諭吉でさえ知ってるのにこのヘタレは」 ニヤニヤしながら此上はキッチンへ。 「碧ちゃん可愛かったよ?お嫁さんになりたいとか言っちゃって、千尋、逆プロポーズされてんじゃん!そこら辺は碧ちゃんが大人だな」 先にキッチンに居た神林にも言われる。 「う、うるさいなあ!」 西島は椅子にふてくされた顔で座った。 「でも、良かったな佐々木と斉藤くん」 親に承諾貰った話を此上にもしていた。 「千尋も見習え」 「だから、うるさいって!」 西島だって考えていないわけではない。ちゃんと……家族になりたい。 ミサキにも紹介したし、碧の両親とも仲良しだ。 このまま、結婚しても反対はされない。 ただ……あの人がどう思うか。それが頭から離れないのだ。 反対するのだろうか? いや、そもそも、自分は跡継ぎとかじゃないから……跡継ぎはミサキだから。 だって、あの人は何も言ってこない。 会社をつけだの、どーしろ、あーしろ……佐々木の父親みたいにうるさくはないが、それもまた見放されているようで……どこか寂しく感じてしまう。 別に期待していない。 あの人の事を考えると必ずそこに行き着くのだ。 大人には期待していない。 子供の頃……そう心に植え付けられたから。

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