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逃げてばかりではダメなのです。9話

どうしたい?どうされたい? 今更ながらこの質問が頭を過ぎる。 どうもされたくはないし、どうもしたくはない。 でも……碧とのことを知ったら? 「千尋?」 「えっ?」 此上の声で顔を上げる。 「さっきから呼んでるのに……どうした?顔色が良くないけど」 彼が近付いてきて、額に手を当てられた。 当然、何すんだよ!と怒るかと思っていたがじーっと顔を見てくる。 「本当、どうした?」 此上の顔を見てくる時……それは何か悩んでいる時。小さい時からの彼のSOS。 言葉を上手く伝えられなくて、でも心に沢山悩みを抱え込んでしまって身動きが出来ない。何から訴えて良いか分からないのだ。 本当に……こういう所は変わらない。 「トオル、夕食出来たら碧ちゃん呼んであげて……ちょっと、千尋とベランダに居るから」 外に出ても良いだろうが外に出れば碧がきっと何かしら感じて心配をする。あの子は感がいいから。 西島の手を引っ張りベランダへ。 「千尋どうした?」 「別に……何もない……」 俯いてしまった西島。 「お前の何もないは何かあるんだよ」 此上は俯く西島の頭をポンポンと軽く叩く。 ……此上はこういう時察しが良い。 何か言いたい事を上手く言えない時、こうやってずっと聞いてくれるのだ。 心のモヤモヤを言葉に出来るまで根気よく。 やっぱり、此上には敵わない。 俯いてたまま此上の肩辺りに頭を置いた。 どうしても……モヤモヤを上手く言えない時、此上にこうやって甘えると何故か元気が出た。 ……千尋!!この野郎!!こういうあざとい所までそのままかよ! でも、可愛いと思う。そして、大人になってもまだ……小さい頃のままなのも心配になる。 身体が成人しても心が成人出来ていない。 此上は西島の頭をグッと抱き込むと「言いたくなったら言えばいいから」と囁く。 「うん」 西島はぎゅっと此上の服を掴む。 あーー!!もう!千尋おおお!!本当、お前って悩んでる時、可愛い過ぎるだろーがあ!! 「碧ちゃんのこと?」 頭を抱き込んだままに聞くとピクリと身体が反応をしたので、やはりと思った。 「大丈夫だよ、千尋……俺もトオルもお前の味方だし」 その言葉は西島を少し元気にさせた。 「此上」 「ん?」 西島の方へ顔を向けたのと同時に西島が顔を上げたので此上は顎を打つ事になる。 「いたっ!!」 2人同時に声を上げた。 西島は頭を押さえて此上は顎を押さえる。 「何やってるんですか?2人とも」 神林がベランダに顔を出す。 「何でもない、大丈夫」 笑って誤魔化す此上。 「夕飯食べる」 西島も笑って誤魔化す。 夕飯食べると西島が言ったので此上が先に部屋へ。その此上の服の裾を掴む西島。 振り返った此上に「あ、あのさ……此上にさっきみたいにぎゅってされると安心するから……こ、子供みたいで嫌だけど……あの、ありがとう」と俯いて言葉にした。 それを見た此上は一瞬、フリーズ。 このあざとさどうされたいんだお前!!! くそう!本当、いくらでもぎゅっとしてやる!!可愛すぎて死ねる。 此上はそう叫びたいのをぐっと我慢した。

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