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ニッシーと諭吉
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碧の部屋は1階。
危ないだろ、あんな子供が一階とか!
西島はそう考えながらドアノブに鍵を突っ込み、ガチャリと開けた。
ドアを引き、中を覗く。
こじんまりした部屋。
綺麗に掃除もしてあり、見てて危なっかしい碧も家事はちゃんとしているようだ。
にゃ~ん…
猫の鳴き声と一緒にトストスと軽い足音が聞こえ、モフモフした猫が現れた。
もふもふーっ!
西島は猫のモフっぷりに顔が緩む。
諭吉ーっ、可愛い!
西島が好きな長毛種。
尻尾もフサフサ。
諭吉は西島の前まで来て、ちょこんと座る。
前足をちゃんと揃え、モフモフな尻尾をくるりと前足で止めていて、じーっと西島を見上げていた。
「諭吉」
名前を呼ぶ。
にゃ~ん。
とそう鳴くと思った西島に、
「そうたい。あんたが西島?」
と諭吉が言った。
………………………………………
ん?
あれ?
西島は首を傾げる。
そして周りをキョロキョロと見た。
自分の他に誰か居るのかと思った。
諭吉が喋るわけがない。
「にゃ~ん」
諭吉が可愛く鳴いて、西島は、
だよね。きっと自分は碧の可愛さに悶えていたから頭おかしくなったか、幻聴だと自分に思いこませた。
「諭吉、君のご主人がわたし、あ、俺の部屋に居るんだ。熱出しちゃってね。だから、君を迎えに来たんだよ。分かるかな?………なんて説明しても分からないよね。」
西島は諭吉のモフモフした頭を撫でた。
諭吉はにゃ~んと鳴いて、西島の足下に。
か、可愛い!
可愛い猫の仕草にさっき聞いた言葉を忘れた。
そうだよ、幻聴。
猫は喋らない。
諭吉は玄関で西島を待つような仕草を見せる。
ああ、何か理解してくれていると西島に伝わり。
諭吉を抱き上げて部屋を出た。
モフモフな諭吉はフンフンと西島の匂いを嗅ぎ、
「あんた、良か匂いするな発情期だろ!」
とつぶやく。
でも、ちょうど車が真横を通り、その音で西島の耳には届かなかった。
****
「諭吉ーっ」
諭吉を見た碧は凄く嬉しそうに両手を伸ばした。
にゃーん、
諭吉は西島の腕からぴょんと飛び降りると碧の腕の中へ。
ゴロゴロと喉を鳴らす諭吉。
「部長!ありがとうございます」
碧の笑顔。
キュンと西島の萌ツボを鷲掴み。
ぐはっ!
佐藤め!無邪気に笑いやがってぇぇ!
西島は、
「お粥作るから大人しくしてろよ」
とくるりと向きを変えた。
これ以上、モフモフな諭吉と、萌ツボ押さえまくりな碧と一緒に居たら悶え死ぬ!
キッチンへ退避。
西島が出て行くと碧は、
「諭吉、西島部長カッコ良いでしょ!でね、聞いて聞いて!このシャツは部長のだよ、凄くブカブカなんだあ」
碧は諭吉にシャツを見せる。
「後ね、お姫様抱っこされたんだよ」
碧は西島との出来事を諭吉に話した。
「優しいよね部長。諭吉もそう思うでしょ?」
碧は諭吉の頭を撫でる。
………なるほど。
アイツが良い匂いしたのは碧に発情したからか。
諭吉はゴロゴロ喉を鳴らしながらそう考えた。
発情した雄は良い匂いを出す。
もちろん雌もだけど。
西島はかなり、盛っている。
人間の雄はかなり我慢強いな。
まだ交尾はしてないらしいな。
碧の無邪気な匂いからそう感じた諭吉。
クンクンと碧の匂いを嗅ぐと、彼からも発情した匂いがした。
ようやく盛りがきたか。
互いに盛り合っているのに交尾しないとは、人間は変わっている。
諭吉はため息をつく。
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