24 / 526

ニッシーと諭吉2話

*** グツグツと土鍋の中のお粥が音を出す。  溶き卵をお粥に流し込み、火を止めた。 西島はお粥を器に注ぎながら、諭吉のご飯も用意しなきゃな、なんて考える。 トレイに水とお粥を乗せてベッドへと運ぶと碧と諭吉がベッドに寝ていて、 ああ!!もうたまらん!と首をブンブンと振る。  トレイをテーブルに置いて、碧を起こそうか悩む。  せっかく寝ているしな。  でも、薬飲ませなきゃいかんし~  西島は碧の額を触ってみる。  まだ熱い。  「良か匂い。カツオ出汁やな」 えっ?  西島はふいに聞こえた声にキョロキョロする。  いつの間にか諭吉がテーブルに乗っており、クンクンとお粥の匂いを嗅いでいた。  諭吉?  …………………………………いや、ないない!  西島は諭吉を捕まえて下へ降ろした。  「お前にもご飯あげるから」 「マグロ」 「は?」 西島の足下で確かにマグロと聞こえた。  「マグロ」 また聞こえた。  いや、いやいや、  きっと、にゃ~んと鳴いたのがそう聞こえただけだと西島は頭をブンブン振った。  ほら、良く動画で流れてる!  猫が、マグロうまいな~と鳴いてたり、 おかえり~と鳴いたり、偶然にそう聞こえるだけの声。  きっとそうだ!  「マグロかあ~、諭吉はマグロ好きなのか?」 そんな動画を沢山見て可愛いと思っていた西島は、目の前に居る猫も、その類の猫だと思った。  よしよし、と頭を撫でると、ゴロゴロと喉を鳴らす諭吉。  ほら、やっぱり偶然にそう聞こえただけだ。と顔がほころぶ。  西島は諭吉にご飯をあげようと、にゃんこ用のキャットフードを出す。  「マグロや言うとるやん」 真後ろからの声。  えーーーとぉ。  くるりと振り向くと諭吉がモフモフな尻尾をファサファサ振っている。  「マグロ…………えーと、マグロあったかなあ~」 西島は自分の頭がノイローゼにでもなったか何かだと少し怖くなりながら冷蔵庫を漁る。  夕べ買ったマグロの刺身が出てきた。  「まぐろ~ぉ」 諭吉がぴょんと西島の肩に飛び乗った。 そして、にゅっと諭吉の手が伸びてマグロをガシッと掴む。 「あ、こらっ」 西島は諭吉を押さえて、マグロを皿に入れ替えて床に置いた。 「マグロ!マグロ」 諭吉はマグロをアニアニと食べ始めた。 ムニャムニャと食べる姿が可愛い。 動画で見た猫もマグロうまいなあ~と言ってるように聞こえたし、 うん、そうだ! そう聞こえるだけだ! 「マグロ~美味かばい」 えーーーと、 九州弁? 諭吉から聞こえてくる言葉は九州弁っぽく聞こえる。 「博多弁?」 んな、わけないよな。うん! 「肥後や」 肥後? あんたがたどこさ? 肥後さ、 肥後どこさ? 熊本さ、 ………………………………くまもとおーっ! 頭にもんもんも~ん、くまもー〇と黒い色で眉毛と赤いホッペが印象的なゆるキャラが浮かんだ。 ちがう! ちがうだろ! いま、猫と会話したよな? 諭吉をじーっと見つめる。 ガツガツ食べた諭吉は食べ終わったみたいで、 「マグロ美味かったぞニッシー」 と言ってくるりと向きを変えて寝室へとトタトタ足音をさせながら走って行った。 ニッシー? あ、西島? 俺か? 食べ終わった皿を床から持ち上げて皿を見つめる。 えーーと、 今、何が起こったんだっけ? 諭吉がマグロを美味いと言って、 話した言葉は肥後で、熊本で、 うーーん。 西島は考え込む。 猫って方言喋るのか? いやいやいや、 ないないない! 皿をシンクへ置くと寝室へ戻った。 諭吉は碧の側で毛繕いをしている。 ペロペロと舐めている姿は可愛い猫。 やっぱり自分の幻聴だと思い込ませた。 「ん~~」 碧が寝返りをうち、パチリと目を開けた。 西島と目が合って、 「あ、すみません僕寝てました?」 と慌てて起き上がる。 「ちょうど、お粥が出来たから食べなさい」 西島は寝起きの碧にきゅーっと胸を締め付けられながらテーブルをベッドに近づけた。

ともだちにシェアしよう!