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ニッシーと諭吉4話
西島はくるりと背を向けて、「気にするな」と言った。
凝視出来なかった……。
にゃ~
諭吉の鳴き声。
マグロ美味かばい、
肥後……
さっきの言葉を思い出した。
猫が喋るわけがない。
「あ、諭吉のご飯」
心配そうな碧の声。
「諭吉ならさっきマグロを食べさせた」
「えっ?マグロですか?もしかしてマグロを催促されました?」
なに?
まさか!
西島は勢いよく碧の方を向き、
「その猫喋るだろ!」
とかなりの形相で聞いた。
ちょっと碧は引き気味だけど、
「はい。マグロうまい~って言うんです。部長も聞いたんですか?諭吉凄いですよね、えへへ」
碧は諭吉をぎゅっと抱きしめてホワホワした笑顔を見せた。
なんか、
ね?
明らかに碧の反応はさっき西島が感じた動画で良く見る光景的な反応で、
自分をニッシーと呼んだり、 産まれを肥後と言ったり、 なんだか自分の中だけでの温度差。
「あ、うん……マグロうまい~って」
「でしょ?諭吉天才なんです!」
ニコニコな碧の上でゴロゴロ喉を鳴らす諭吉。
あ、あれ?
やっぱ気のせい?
ピンポーン~
戸惑う西島を助けるかのようなチャイム。
まあ、佐々木なのだけど。
開けたくはないが、ドアを開けに行く。
開けた瞬間、目の前にバラ。
「何の真似だ?」
露骨に嫌そうな顔をする西島。
「バラは碧ちゃんのお見舞い、あがるぞ~」
有無も聞かずに佐々木は上がり込む。
そして、 「碧ちゃーん」と寝室にバラを抱えて入って行く。
突然の佐々木の乱入に碧の目はクリクリ。
「佐々木部長」
「碧ちゃん大丈夫?熱出したんだって?」
佐々木は碧の近くに行くと、バラの花束を見せる。
「これ、お見舞い」
「えっ?凄いバラの花束とか!僕、初めて見ました」
「気に入った?」
「はい。綺麗ですね」
碧は嬉しそうに微笑む。
「碧ちゃんの方が綺麗だよ。ほら、これは西島に水つけて貰おうな」
佐々木は側にいる西島にバラを渡す。
何かムッとくる西島。
佐藤も佐藤だ!
何、バラの花束に嬉しそうな顔してんだよ!
イライラしながらバラの花束を手にする。
わあ!凄い、西島部長ってバラの花束が似合う!
カッコいいなあ~。
ウットリと自分を見つめている碧に気づいていない西島。
「碧ちゃんゼリー好き?」
佐々木の突然の質問に碧は頷く。
「苺味は好き?」
「はい。」
それにも頷く碧。
「そっか、そっか」
佐々木はニコニコしながら、西島に「薬は?」と聞く。
面倒くさそうに薬を渡す西島。
「スプーンと皿」
佐々木に無性にイラつきながら、バラをキッチンへと置き、スプーンと皿を手に戻る。
佐々木に渡すと、紙袋から箱を出す。
微かに苺の甘い匂い。
佐々木が言っていた薬を飲むやつか?
それを見つめる西島。
佐々木は慣れたように薬をゼリーに入れ込むと、
「はい、碧ちゃんあーん」
と碧の前にスプーンを出す。
スプーンの上には赤いゼリー。
甘い匂いがする。
碧は反射的にパクンとスプーンをくわえた。
きゅんっ!
パクンとくわえた碧に西島と佐々木は悶えそうだ。
ゴクンと飲み込んだ碧。
スプーンの上からはゼリーは消えていて、
「はいはーい、碧ちゃん上手にお薬飲めました」
佐々木は碧の頭を撫で撫でする。
「えっ?薬?」
キョトンとする碧。
「今のゼリーの中に薬が入ってたんだよん」
「えっ?えっ?そうなんですか!」
甘い苺味しかしなかったので碧は驚いた顔を見せる。
「そうなんですよ碧ちゃん、偉い偉い」
佐々木は小さい子供を誉めるみたいに頭を撫で、碧も嫌がる素振りを見せない。
むーっ、
西島はイライラ。
「用が済んだら帰れ」
「冷たいなあ西島くんは。お客さんにお茶くらい出せよ」
誰が出すか!
なんてイラつくが、
碧が見ている。
何か、悪い印象を与えたくなくて西島は渋々、お茶を用意しに行く。
にゃ~ん
諭吉は西島の後を追う。
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