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逃げてばかりではダメなのです 18話
◆◆◆
「おかえりなさい」
此上が部屋に来ると碧が笑顔で迎える。
「ただいま……あれ?千尋は?」
「寝ちゃいました」
「えっ?碧ちゃんより先に?」
別に嫌味ではない。碧がお子ちゃまだと思っているわけでもない。寝る時は必ず碧と一緒だからだ。
「疲れてるんじゃないかな?」
と神林。
「そうか……」
西島が寝ているならば……碧にお願いをしようかな?と思う此上。
こちらの味方になってくれたら……。自分の言う事は聞かないだろうが碧ならと思った事を言ってみよかと思うのだ。
「あのさ、碧ちゃん……」
此上が話を切り出した瞬間、碧のスマホが鳴る。
此上を気にしながら表示を確認する碧。出るか出ないかを迷っているようだ。
表示は斉藤くんと出ている。
「星夜くんからだ」
「碧ちゃん出ていいよ、後で話すから」
此上の言葉で碧は電話に出る。
「碧、夜遅くにごめん」と斉藤の声。
「大丈夫ですよお」
「西島部長と一緒?」
「ちひろさんは寝ちゃいました」
「えっ?碧より先に?」
此上と同じ事を言う斉藤。彼もまた悪気はない。
「疲れてるんだと思います」
「そっか、じゃあ……お土産は明日持ってくね」
「お土産……あ!!もう帰ってきたんですね」
「うん、碧んとこに寄ろうかと思ったんだけど、西島部長寝てるんじゃあ……起こすと悪いし」
「おかえりなさい」
碧は元気良く斉藤にそう言った。
「ただいま」
「星夜くん、明日から……仕事来るんですね……」
碧はワクワクした顔を見せる。
「うん、またよろしくね」
「はい!」
また、斉藤と一緒に仕事が出来るという喜びが湧き出てくる碧。
やはり斉藤がいないと寂しい。
仲良くしてくれる友人だから。
電話を終えると「斉藤くん仕事復帰?」と神林に聞かれた。
「はい」
「良かったね、寂しかっただろ?」
「はい」
碧は嬉しそうだ。
「あ、此上さん何か言いかけてましたよね?」
「えっ?あ、うん……今度皆でドライブ行こうって思って」
「えっ!!行きたいです」
碧は大きな瞳をキラキラさせて喜んでいる。
「うん、千尋が起きたら伝えて……じゃあ、俺達は帰るよ」
此上は神林を促す。
「はい、ありがとうございました」
碧は玄関まで見送りに行く。
もちろん諭吉も見送りに来た。
「ワシも連れてけな」
「もちろんだよ」
諭吉の頭を撫でる此上。
「おやつはマグロで良かぞ!」
「了解!」
此上はそう言って神林と一緒に部屋を出て行った。
◆◆◆
車に乗り込むと「篤さん……本当は違う事を碧ちゃんに言うつもりだったでしょ?」と神林に言われた。
「まあね……」
此上はシートベルトをつけ、エンジンをかける。
「本当は公園で君が会う人は千尋のお父さんだよって言うつもりだったんだ」
そう言いながら車を走らせる。
「どうして言わなかったんです?」
「……千尋の最後の砦が碧ちゃんだから……碧ちゃん、嘘つけないだろ?正直にそのまま言ってしまう、いくら理由を言ったとしても千尋は動揺する……」
「……そうだけど、理由をちゃんと言えば」
「今の千尋が聞くと思うか?子供の頃からずっと避けていた問題だ……あいつの事だから否定しまくるだろうし、聞き耳もたないと思う……それに碧ちゃんが傷つくのは嫌だし……色々と考えてしまうんだ」
「……逃げてばかりではダメなんですけどね篤さん……本当は篤さんに覚悟がないからじゃないですか?」
神林の鋭い突っ込み。
「諭吉にも言われたなそれ……俺は臆病なんだ……千尋の事になると」
「過保護だな篤さん」
神林の言葉に笑う此上。
「過保護だよ俺は」
ずっと守りたい子供だったのだから……過保護になってしまう。
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