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部長が運命の人ですか? 8話
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部屋に戻ると碧がキッチンに居た。
「おかえりなさい」
西島と諭吉にニコッと微笑む。
おかえりなさい…………
じーん、ときた。
誰かがおかえりなさいって、この部屋で迎えてくれるのは初めてだ。
……て、感動している場合じゃない!
「佐藤、寝てないと駄目だろ!」
慌てて碧の側に行く。
「あ、だって、鍋が」
碧は迫力で迫って来た西島に少し引き気味。
「あっ、」
碧に言われて思い出したのは鍋をかけていた事。
うわ、俺とした事が!
こんなやらかしは初めてだった。
「でも、焦げてませんよ」
ニコッと笑う碧。
バタンとドアが閉まる音がしたから碧は様子を見にキッチンへと出てきた。
鍋がかけっぱなし!
わあ、危ない!
碧は西島の役に立てたら嬉しいと、彼が戻るまで鍋を見ていたのだ。
「ごめん、餌を…あ、いや、とにかくありがとう」
西島は鍋をかけっぱなしの理由を言おうとした。
でも、公園のにゃんこに餌をやりに行っているのがバレるのが恥ずかしく、慌てて誤魔化す。
「いえ」
ニコッと笑う碧。
か、可愛い!
そして、気付く。
碧がシャツ一枚だけな事に。
見慣れてはきたが、こうやって立ってられたら、
その、 視線がつい、下に行ってしまう。
白い脚が目に入る。
あ~、もう見ちゃ駄目だ!
西島は視線を鍋へと移した。
「食事しよう。ベッドに持って行くから待ってなさい」
これ以上は目の毒だ。
「あ、あの、見てちゃダメですか?」
碧はおずおずと西島に聞く。
「何を?」
「西島部長が料理している姿です」
「えっ?、ええっ!み、見ても面白くないぞ!ほら、諭吉とテレビでも見てろ」
西島はかなり焦った、
と、いうより、照れた。
俺を見てても面白くない!こんなオッサンを!
「じゃあ、テレビ見てます」
断られてしょんぼりしている碧。
一瞬、にゃんこと重なった。
しょんぼり……にゃんこ、寂しくないか?
兄弟猫と遊んでるか?
「いや、いい。見てていい。でも、座ってろ。」
碧にそう言ってしまった。
碧は直ぐに笑顔になり、椅子に座った。
西島は碧を気にしながら料理の続きを始めた。
料理といっても、もう出来上がるのだが、妙に緊張している。
誰かに見られながら料理を作るとか、本当に久しぶりだし、 自分の作る料理を待っていてくれる人が居るとか、心がソワソワする。
くすぐったい。そんな気持ち。
でも、悪くはない。
***
部長の背中、おっきいなあ。
碧はウットリと西島の後ろ姿を見ている。
足元にいた諭吉がぴょんと膝に飛び乗ってきた。
ゴロゴロとノドを鳴らし諭吉がスリスリと頭を碧にこすりつけている。
そんな諭吉の頭を撫でながら、
「諭吉、部長格好いいよね。ずっと見ていたいなあ」
と小声で話す。
ずっと見ていたい。
ドキドキ、ドキドキ、
ずっと胸がドキドキしっぱなし。
夏が運命の人に会うとドキドキする。と言っていた。
その言葉を思い出す度に、西島が運命の人なのか?と誰かに聞きたくなる。
でも、聞かなくても、 西島と一緒に居たら幸せな気持ちになるのは確かだ。
夏姉ちゃん、 部長が運命の人かな?
そう考えながら西島の背中を見ていた。
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