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好きになってもいいですか?
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「ここで食べるか?」
ぼんやりと西島を見ていた碧は、彼の問い掛けで我に返った。
「はい」
慌てて返事をする。
西島は碧の返事を聞くと食器をテーブルに並べ出す。
「ぼく、僕も手伝います」
椅子から立ちあがってみたものの、
「病人は座ってろ」
と肩を掴まれ座らせられた。
黙って待っていると、置かれた食器に雑炊がそそがれた。
「病人食ばかりで悪いな」
西島の優しい言葉。
碧は慌てて首を振る。
「西島部長の作る料理はすごーく美味しいです」
すごーく、
子供みたいな褒め言葉に西島は思わず顔が緩む。
「ありがとう」
こんなに素直にありがとうだなんて言える自分に驚く西島。
碧と居ると不思議なくらいに優しくなれる。
向かい合わせに座ると西島も一緒に食事をする。
「いただきます」
2人の声がかぶさり、目を合わせて笑ってしまう。
本当に久しぶりだ、 こんな風に食卓に笑顔があるなんて。
西島は顔がにやけるのを我慢する。
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部長とご飯食べれるなんて凄いよね。
昨日から奇跡が続く。
碧は目の前の西島をつい、ちらちら見てしまう。
西島も碧に付き合うように雑炊を食べている。
僕に合わせてくれているんだよね?優しいーっ!
碧もニヤニヤするのをぐっと我慢する。
****
「僕が洗います!」
食事が終わり、食器を片付けている西島にそう言い出す碧。
「だから、病人は大人しくしてろ」
思った通りの西島の返事。
「で、でも、西島部長にばかり」
「気にするな」
西島はニコッと微笑む。
「熱下がったみたいだけど、念の為だ。歯磨いたらベッドな」
「はい」
手伝いしたかったな。
お世話になりっぱなしじゃ申し訳ない。
碧はそればかりを考えていた。
はい。と返事した碧の姿がしょんぼりして見えて西島の胸がギューッと締め付けられている。
ま、まさか、また甘えているのか?
そうなのか?
碧がやたらと側に居たがるから、西島がまた勘違いをしている。
「あ、じゃあ、洗って貰おうかな?」
つい、そう言ってしまった。
余りにもしょんぼりとしているから。
「はい!」
その言葉に魔法でもかけられていたのか?と思うくらいに碧は元気良く返事をして、嬉しそうに笑った。
そうか、やっぱり甘えていたのか!
西島は嬉しそうに食器を洗い出す碧を見て、ホッとした。
あんなにしょんぼりされては夢見が悪いじゃないか!
カチャカチャと食器の音をさせながら洗う碧の後ろ姿。
華奢で小さい。
しかも、微妙に爪先立ちしている。
キッチンは外国の物で、背が高い西島にはサイズはぴったりなのだが…………
小柄な碧はよいしょ、よいしょと一生懸命に食器を洗っている。
あ………やばいなコレ!
可愛い!めちゃくちゃ可愛い!
器を洗い終わり、鍋を洗う碧。
鍋の中に水を入れる時に水量を誤り、鍋に落ちる水の勢いが激しくてしぶきで碧が濡れてしまった。
「わああっ」
慌てて水道を止める碧。
既にシャツがビショビショ。
碧は自分よりもキッチンの周りと西島を心配げに見た。
「びしょ濡れだな」
振り向いた碧はハムスターが水浴びしたみたいに、小さくなっていた。
多分、西島に怒られると思ったのだろう。
「拭くよりも風呂がいいな」
西島は碧の背中を押して風呂場へと連れて行く。
「ご、ごめんなさい!あの、鍋後で洗います」
碧は勢い良く頭を下げた。
「食器だけで十分だよ。ほら、また熱でるかもしれないから」
湯船にはお湯がはられている。
西島は休みの日はゆっくりと風呂に浸かると決めていて、食事が終わる頃にお湯がたまるようにとタイマーをセットしていた。
「着替え持ってくるから」
西島にそう言われ、頷く碧。
彼が着替えを取りに風呂場から出るとシャツを脱いで下着も脱いだ。
部長に良いとこ見せれなかったと、碧はしょんぼりする。
僕のばかばかーっ!
自分を責めながらシャワーで身体を軽く洗うとバスタブへと入っていく。
部長、呆れたかな?
まともに鍋さえも洗えないんだもん!
へこむーっ!
碧はへこんだまま、口元までお湯に沈んだ。
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