62 / 526
好きになってもいいですか? 6話
◆◆◆◆◆◆◆◆
「うわあああ」
西島の雄叫びで碧は目を覚す。
身体を起こして様子を伺う碧。
急いでスーツを着ている西島の姿が視界に入った。
西島も碧が起きている事に気づき、
「仕事行くから佐藤はちゃんと寝てろよ」
そう言われた碧は、
仕事?
と、一瞬、首を傾げた。
まだ頭がハッキリしていない碧は暫し考える。
何気に時計を見て、碧もようやく覚醒。
西島が雄叫びを上げた理由。
それは、
‥‥‥‥今の時間が7時半だから。
ああーーっ!
遅刻だ!
「ぼ、僕も行きます!」
慌ててベッドから降りようとする碧。
「今日まで休め!いいな!」
西島に止められた。
「で、でも」
「いいから寝てろ」
西島は上着を着ると、髪を整えに洗面台へと急ぐ。
「あ、飯は冷蔵庫にあるから温めて食べなさい。それと、諭吉の飯はキャットフードがキッチンの棚にあるから、それを与えて良いから」
洗面台から思い出したように叫ぶ。
「は、はい!」
碧は返事をしながら洗面台へ。
髪を整えた西島はいつもの西島部長で、それはそれで、カッコいい!なんて、碧は見とれる。
素早用意を終えた西島は玄関へ。
その後を小さい子供みたいに着いてくる碧。
「じゃあ、行って来るから、良い子にしてろよ」
鍵を手にドアをあける。
「は、はい!いってらっしゃい」
碧は西島に声をかける。
いってらっしゃい!
その声に思わず碧を見る西島。
わ、悪くないな。
誰かに見送られるなんて、久しぶり?
にやつくのをこらえ、
「行ってきます」
と、碧に言うと、ドアを閉めた。
行ってきます。
西島の声が碧の頭の中で何度も再生され、
「きゃー、諭吉!聞いた?行ってきますだって!」
騒ぎながらキッチンへ戻る。
ニヤニヤが止まらない。
「にゃー」
諭吉が碧の足元に身体を擦りつけている。
「諭吉、ご飯?」
ニヤニヤしながらキャットフードを取り出す碧。
「マグロぅ」
マグロを請求する諭吉。
「マグロ?だめだよ!我慢して」
皿にフードを入れると、諭吉はクンクン匂いを嗅いで食べ始める。
◆◆◆◆◆◆◆◆
「よう!珍しくギリギリだな」
会社に着くなり佐々木に捕まる西島。
「ギリギリか?いつもと変らない」
平静を装う。
「碧ちゃんといちゃこらしてたんだろ?」
ニヤニヤとした顔の佐々木に少しイラつきながら歩く西島の先に斉藤が待ち構えている。
朝から疲れる2人に溜め息をつく。
「あー、何スカ!溜め息とか!」
目ざとい斉藤の突っ込み。
「うるさい」
「碧は?」
「そうだよ、俺の碧ちゃんは?」
2人の突っ込みもなんだか余計に疲れる。
せっかく、碧に癒やされてきたのに。
「今日まで休ませた」
「えー、じゃあ、まだ部長の部屋ですか?いいなあ、碧」
羨ましいがる斉藤。
「ほら、仕事行けよ、」
面倒くさそうに、斉藤を、追い払う。
チェッ、とふてくされ斉藤は先に行く。
◆◆◆◆◆◆
西島は社会人になって、初めてギリギリに起きてしまった。
いや、もう!ビックリしたのだ!
碧があまりにも抱き心地良すぎて、ギリギリに目を覚してしまった。
「なあ、碧ちゃん抱き心地良かったか?」
「はっ?」
佐々木の言葉にドキッとさて、思わず大きい声が出てしまう。
なんせ、実際に抱っこしていたのだから。
「なに?その反応?気になるなあ」
佐々木はこういう時、めちゃ感が良い。
ニヤニヤして、西島を見てくるのに殴りたい衝動に駆られる。
「何もないよ。」
プイっと視線をそらす。
「まあ、いいけどね。」
佐々木は西島の肩を軽く叩くと先に行く。
◆◆◆◆◆◆◆◆
「諭吉、後片付けするから良い子にしててよ」
碧はせめて、片付けくらいはと張り切る。
「諭吉、西島部長優しいでしょ?」
食器を洗いながら諭吉に話しかける。
「にゃー、」
諭吉が碧の携帯のストラップをくわえ、ズルズルと携帯を引きずってきた。
「何?」
碧はしゃがむと携帯を手にする。
着信の表示。
慌てて開く。
名前の表示は斉藤。
かけ直すと、直ぐに斉藤はでた。
「碧、大丈夫か?」
優しい声が電話の向こうから聞こえてくる。
「ありがとう。大丈夫だよ」
「そうか、良かった。熱は?」
「たぶん、下がった」
「じゃあ、明日は会社来れるんだ?」
「うん。」
そう、返事して、気付く。
治ったら自分の部屋に戻る?
部長と、もっと一緒に居たい。
「こら、斉藤!」
ふいに聞こえた西島の声。
部長‥‥‥‥‥
「ごめん、また後で!」
電話は切れた。
携帯を握ったまま碧は溜め息をつく。
「にゃー、」
諭吉が擦り寄ってきた。
「諭吉、僕‥治りたくないよ。」
そう呟く。
◆◆◆◆◆
「仕事中、誰に電話してたんだ?」
怒ったような、西島の声に斉藤は愛想笑いで誤魔化した。
ともだちにシェアしよう!