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好きになってもいいですか?10話
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「さり気なく明日や次も約束ばしよったな、ニッシーなかなか、やるやんけ」
リビングでパソコンを触る西島の側に諭吉が来た。
「仕事の邪魔しに来たのか?」
西島はチラリと諭吉を横目で見る。
「そぎゃんばい!」
「なら、あっち行け!仕事の邪魔だ!」
手でシッシッと追い払う。
「 何や、冷たかね。 」
諭吉はピョンと西島の膝の上に乗ると、そのまま丸くなる。
「おい、あっち行けって言ったよな?」
「あっちがどっちか分からん」
諭吉はゴロゴロと喉を鳴らす。
無理矢理に降ろそうとも考えたが、膝の上に猫!
念願の夢が叶っているので、そのままにした。
「騒いだら追い出すからな」
文句を言いながらも諭吉の頭を撫でる手は優しい。
「ニッシーはワシが喋っても驚かなかったな」
あっ、‥‥‥‥そうだった、自然と会話をしていたが、猫は話さない!
きっと、疲れるているのだ!
「前は碧とも話してたんだが‥‥」
「えっ?佐藤もお前が話すって知っているのか?」
驚いて諭吉に視線を落とす。
「もう、随分前さ、」
「何で、今は話さない?」
「 ある日、碧に声が聞こえなくなったとさ。そんだけの事。声が聞こえんくなっても、碧はワシにずっと話かけて来る。」
諭吉は顔を上げないからどんな表情をしているか分からない。
でも、寂しいと伝わってくる。
「なんで、俺には声が聞こえてるんだよ?」
頭を撫でながら西島は呟くように言う。別に答えて貰いたいわけではない。
「認めたな!ニッシーはずっと、気のせいやと思っとったやろ?」
うっ、
諭吉の突っ込みに西島は苦笑いをする。
「まあ、良かさ、聞こえてるんやったらそいで良か」
諭吉はそう言うと目を閉じた。
◆◆◆◆◆◆
「佐藤、起きなさい」
西島は碧の身体をゆする。
「んーっ」
唸ったものの碧は起きない。
「そがんじゃ、碧は起きんぞ」
諭吉はぴょんと、ベッドに飛び乗り
「に~ッ」
ひと声あげ、碧の上で前足をモニモニと足踏みさせた。
「んーっ、諭吉、ご飯?」
眠そうな目を開ける。
諭吉は西島の方を見て、ニヤリッと笑う。
なんだか、不思議の国のアリスに出てくる猫だ。
「佐藤、朝ご飯食べなさい」
「部長‥‥‥‥、あっ、部長おはようございます!」
西島の顔が視界に入り目が完全に覚め、慌てて起き上がる。
「仕事行くんだろ?着替えに一度部屋に戻らないといけないし、早く朝ご飯食べなさい」
「は、はい!」
いつものガミガミ口調だけど、優しさを感じた。
「マグロぅ!」
諭吉は西島の、足元で叫ぶ。
「朝からマグロはやらん!贅沢な!」
西島は諭吉を抱き上げてキッチンへ連れて行く。
碧も西島の後ろを着いていく。
いつもより早い時間。
西島は碧の為に更に早起きをした事になる。
碧の為の朝食作りも苦ではない。むしろ楽しい。
彼が美味しそうに食べてくれる顔を見れるだけで自分も楽しいのだ。
現に、目の前の碧は美味しそうに西島が作った料理を食べている。
甘いのが好きそうな碧に、パンケーキを焼いてカットフルーツを添えた。
蜂蜜とバターをかけているパンケーキは碧と同じ甘い香がする。
部長はいろんな料理が作れて凄いなあ。
パンケーキも凄く美味しい。
視線を感じて西島を見ると、
「美味いか?」
そう聞かれ。もちろん碧は「はい!美味しいです!」元気に答える。
その笑顔は可愛い。
しかも、ホッペに蜂蜜がついていて、それに手を伸ばし触れた。
急に伸びた手に碧は驚く。
西島の手は頬に触れて、何かを拭き取った。
「蜂蜜ついてる」
碧に微笑む西島。
ぶ、部長おぉぉー!
その笑顔反則です!
まぶしすぎます!
碧は照れて俯く。
指で拭き取った蜂蜜はペロッと舐められた‥‥‥‥諭吉に!
手を下に下ろした瞬間にやられた。
別に舐めたかったわけではないが、なんか、悔しい西島。
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