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好きが止まりません
◆◆◆◆◆◆
いつもの駅までの道が今日の碧には、なんだか違って見えていて、まさか、入社式で見て憧れを抱いていた西島と一緒に歩いているなんて信じられない。
夢じゃないよね?
まだ熱が下がっていないわけじゃないよね?
何度も、何度も、確かめる。
駅の改札口を抜けてホームに並んで立つ。
つい、最近だったのに!
部長が近所に住んでいるって分かって、駅で部長を見つけるのが嬉しくて仕方なかったのに、
今、一緒に居る。
凄いや!
神様にありがとうって、言いたい!
◆◆◆◆◆
朝のラッシュは嫌いだ!
ぎゅうぎゅう詰めの車内息が苦しい!
そして、碧の存在。
西島より小さくて、華奢な彼は吊り革さえ、掴めないでいる。
背は届くのだが碧の近くに吊り革がないのだ。
掴む場所もなく不安定そうな碧。
ガタンっと、たまに大きく電車が揺れ、碧は必死に耐えている。
また、大きく揺れ、西島は咄嗟に碧の身体を自分の方へ抱き寄せた。
ぶ、ぶちょおおぉぉー!
碧の鼓動が一気に加速する。
「す、すみません!」
碧は動揺しながら謝る。
「掴まる所がないんだろ?私の上着掴んでいて良いから」
西島の腕は碧を支えたままで優しい言葉が頭上から降ってくるのだ。碧は顔を上げれないで、
「は、はい。」
と返事をして、ぎゅっと上着を掴む。
密着度が高い。
西島の香をフワリと感じた。
部長‥‥‥良い匂いがします。
つい、子犬みたいに鼻をヒクヒクさせた。
◆◆◆◆◆
あうっ!
やばい!
佐藤!!
可愛い!
碧がぎゅっと上着を掴んできた瞬間から燃えよツボを刺激されまくりな西島。
佐藤、凄く、甘い香がするな。
西島もヒクヒクと匂いを嗅いでいた。
◆◆◆◆◆◆
「あれえーっ、同伴出勤ですか?」
駅を出て、直ぐに斉藤に出くわした。
碧と西島を交互に見ている。
「変な風に言うな!」
西島はムッとしながら言う。
「同伴出勤って、何?」
碧は言葉の意味を理解出来ずに斉藤に聞く。
「さすが、碧ちゃん!意味を知らないなんて、可愛い!」
斉藤は碧の頭を撫でながらに笑っている。もちろん、馬鹿にしているわけではない。
純粋に可愛いと思ったからだ。
碧の頭を撫でる斉藤に何故かイラっときた西島。
「遅刻するぞ!」
と、斉藤の手を振り払う。
3人で歩き出す。
「部長、今日、飲みに行きましょうよ」
「いかない!」
「うわー、即答」
西島は間髪入れずに断った。
「じゃあ、碧、行こうぜ?」
「えっ?あ、僕?僕は」
碧はチラリと西島を見る。
今夜はハンバーグを作ると言っていたから。
「佐藤はまだ未成年だろ、ダメだ」
さり気なく西島が断る。
「えーっ、なんで、部長が断わるんですか?つまんない!」
「お前は女の子と飲みに行ってろ、昨日も賑やかに飲みに行っただろ?そんなのに佐藤を巻き込むな」
「見てたんですか?」
「ほんと、お前は軽いな」
西島に迫ったのはつい、この前だ。
それなのに、女の子と騒ぐ。
信用ならない。それが、斉藤のイメージ。
「部長が俺に本気になってくれたら、遊びは止めますよ」
ニコッと笑う斉藤。
本当に悪びれた様子はない。
ハアっ、とため息が出る。
「なるか!」
怒るのも疲れるので、西島はそう言って、碧の腕を掴み先を急ぐ。
掴まれた腕。
わあ、部長!
今は人前!そう、斉藤の目の前での行動。
いやらしい意味はないと分かっているけどドキドキする。
腕を一方的に掴まれているのだけど、碧には手を繋いでいるような感覚だった。
部長!僕は今、身体が熱いです。
やばいくらいに、熱いです。
◆◆◆◆◆◆◆
「お前、案外大胆だな」
昼休み、医務室へ行くと、入り口で神林にそう言われた。
「何が?」
「朝から碧ちゃんと手を繋いで出勤しだろ?車から見えた」
「は?何を言ってんだよ?佐藤と手なんて繋いでいない」
「西島、俺の目は両目とも2.0だ」
「繋いではいない!掴んだだけだ」
「あー、はいはい、掴んでただけね」
神林はコーヒーをカップに注ぐと西島に渡す。
「で、碧ちゃんをここには誘わなかったのか?」
「後から来る。」
「あっそ、」
神林は笑うと碧の分のお茶を用意する。
「あ、あの、遅くなりました!」
丁度、碧が入ってきた。
「碧ちゃん、熱下って良かったね」
神林はお茶が入ったカップを渡しながら碧に言う。
「あの、本当にお世話になりまして!ありがとうございました。」
深々頭を下げる碧。
「相変わらず碧ちゃんはお行儀良いね」
ニコニコと笑う神林。
「佐藤、もういいから飯」
西島は手招きをすると、持って来た袋から弁当箱を出した。
「お弁当ですか?」
「そう、佐藤はお握りばかり食べてたからな、バランス良く食べなさい」
そう言って、渡された弁当は西島手作りの美味しそうな弁当だった。
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