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二学期-1

◇ 「なーなー」 だから本を読んでるときは話しかけんなって言ってんだろ。俺は無言を貫く。 「なあ、水原ー」 「……」 「なあってばー!」 「…うるせーな。何だよ?」 仕方なく目をあげる。 「この前貸した本、どうだった?」 「…あー、うん、面白かったよ」 悔しいことにな。俺の心情をよそに、芦澤は「だろ?」と嬉しそうに笑う。 「お前が好きそうだと思ったんだよなー、テンポがよくて皮肉がきいてて」 この軽薄な男ごときに自分の内面が見透かされているようで、やっぱり悔しい。 「あ、麦茶カラじゃん。まだ飲む?」 芦澤は俺のグラスを見て言うと、俺が断る前にグラスを持って立ち上がった。 「下行って注いでくるわ」 「いや、いいよ。暑かったから喉渇いてて一気飲みしただけだから」 「まあまあ、俺も飲みたいし。行ってくる」 芦澤はひらひらと手を振って部屋を出ていった。 一人きりで残された他人の部屋。変な感じだ。あいつ、俺に物色とかされても嫌じゃないんだろうか。まあしないけど。 不思議な感覚だった。クラスで一番離れた存在だと思っていたのに、いつの間にかあいつとの距離が縮まり(というかぐいぐい詰めて来られて)、なつかれて数ヵ月、今となっては放課後に互いの部屋を行き来する仲になってしまっている。 何気なく部屋を見渡す。ぎっしりと文庫本が詰まった本棚、教科書類が積まれた学習机、シンプルな小テーブル、濃紺のカバーがかけられたベッド。 …このベッドで、ミカちゃんやらナナちゃんやらサオリちゃんやらと何度いかがわしいことをしたんだか。 何度も来たはずの部屋なのに、ふいにそんなことを思いついて、急激に居心地が悪くなる。

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