10 / 16
三学期-3
◇
「樹ー、今日お前んち行っていい?」
すたすたと駅に向かって歩く俺を追って、悠人が声をかけてくる。
「…だめだ」
「なんで?親いるの?」
「…いないけど」
「じゃあ珍しく何か用事?」
「…そういうわけじゃないけど」
「じゃ、うち来る?」
「…行かない」
前を向いたまま答えると、悠人ははーっと息を吐き出した。
「最近そんなんばっかじゃん。どしたの、お前。なんかあった?」
「…なんもねーよ」
ならいいけど、と悠人が俺の腕を引いて、自販機のかげに入る。そのままキスされそうになって、思わず顔を背けた。
「え、なんなん。普通にショックなんだけど」
「……」
「どういうこと?俺のこと嫌になった?」
「…そういう、わけじゃ」
おい、と悠人が俺の肩をつかんだ。
「目え見て話せよ」
「……」
少しだけ顔を向けると、悠人が険しい表情で舌打ちをした。
「…んだよ、わっけ分かんねえ。腹立つ」
今まで聞いたことのないくらい低くて厳しい声で悠人が言った。息が苦しい。
「…じゃあ、やめれば」
ごめん、と一言言えば済むかもしれないのに、俺の口から飛び出してきたのはそんな言葉だった。
「やめるって、何を」
「俺に構うの」
「はあ!?」
今度こそはっきりと怒りが滲む声。びくりと肩が震える。
「何言ってんだよ。構うとかじゃねーだろ、俺とお前は」
「あれだろ、ただの好奇心だろ。俺がお前の周りのやつらとタイプ違うから興味もっただけだろ」
「マジで、何言ってんの」
ともだちにシェアしよう!