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卒業式-1

◇ ―今日で卒業か。 壇上で話す校長の禿げ頭をぼんやりと眺めながら思う。全然実感が湧かない。 長かったようであっという間の三年間。色々あったようで、思い返してみると何があったかほとんど覚えていない。…ひとつのことを除いては。 視線を落とし、自分が座る並びの一番前の列を見る。俺の目を吸い寄せるひとつの頭。あの髪に、この指を何度も絡ませたはずなのに、今はこんなにも遠い。もう二度と触れられないほど遠い。 息が苦しくなる。目を背けたら少し楽になった。 上の空でいるうちに式典はどんどん進み、卒業証書の授与が始まった。俺は天井に規則正しくぶら下がる眩しすぎる照明を見つめる。頭が真っ白になる。何も考えられなくなる。瞬きをするのも忘れていた。 「三組、芦澤悠人」 「はい」 名前を呼ばれて、大きくはないのに不思議とよく通る声が返事をした。この声だけは、どんなにたくさんの音に紛れていても、いつでも俺の耳には一瞬で飛び込んでくる。 どくりと心臓が波打った。見ないでいようと思ったのに、目が勝手にその背中を追ってしまう。 あの背中に、この手で何度もすがりついたはずなのに、今はこんなにも遠い。 ―これで終わりなのか。 そんな思いが胸の奥から膨れ上がり、喉もとをぎゅうっと締めつける。 卒業式が終わったら、もう二度と悠人には会えない。 だって、俺と悠人は、たまたま同じクラスになって偶然に関わりを持っただけ。見た目も性格も交遊関係も何もかも違う、正反対で似ても似つかない俺たちは、学校という場所を離れたらひとつも接点がない。

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