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卒業式-3

俺の声が、届いたのだろうか。 悠人が、ふいにこちらを振り向いた。 どくんと心臓が跳ねる。視線が絡み合う。 いつき、と悠人の唇が俺を呼んだ。 それから周りの友達に声をかけ、集団から抜け出すと、ゆっくりとこちらに歩いてきた。 「…悠人」 周りに聞こえない音量で小さく呼んだけれど、皆自分のことで精一杯で、誰も俺たちに注目なんてしていなかった。 悠人が俺を手招きして、誰もいない校舎裏へと導いた。俺と、悠人だけ。二人だけの空間。 悠人は静かな表情で真正面から俺を見つめている。 「…樹。なんか言いたそうな顔してる」 俺はこくりと頷いた。こいつの前でこんなに素直になったのは初めてかもしれない。 震える唇から、くるしい、と掠れた声が洩れた。 「…苦しい」 次ははっきりと言った。悠人が続きを待つように俺を見つめる。その眼差しに促されるように、言葉がぽろぽろとこぼれ始めた。 「お前に会えないの、苦しい。お前と話せないの、苦しい。お前が俺を見ないの、苦しい」 すると、悠人がふっと目を細めた。久しぶりに向けられた、ずっと待ち望んでいた微笑み。 「樹は知らないんだろうけど、苦しいもんなんだよ、恋って」 その言葉に、思わず目を見開く。 …そうか、俺はお前に。 「…恋してるのか」 そうだよ、バーカ、と悠人が笑った。 すとん、と腑に落ちた。納得した。自分でもうまく説明ができなかった、この気持ち。悠人を見るだけで呼吸のしかたも瞬きのしかたも忘れてしまうような、この気持ち。 俺は、悠人が。 「…好きだ」

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