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二人の想い

 諒陽(あさひ)の匂いしかしないベッドに手を繋いで連れて行かれた。  初体験の時よりずっと緊張していた。ダブルの大きなベッドは男二人でも十分余裕があるくらいだった。 「一人暮らしのくせにこんな大きいベッドいる?」と俺が嫌味を言ったら真凰(まお)のために買っておいたんだよと調子の良い事をほざいた。  あんな爽やかだった青年はこんないやらしいことを言ってのける大人になってしまっていた。  諒陽の前戯は乱暴だった。強い痛みを伴うわけではなかったが、獣みたいに荒々しくて、あの爽やかな18歳の余韻は何処にも残ってなかった。俺に許可も得ないまま身体中に赤い痣を残しては、時折甘噛みする。その度俺は無意識に甘く鳴いた。  俺も諒陽を味わいたくて、手や顔を近付けるが、ことごとく却下された。俺に触られたら瞬殺で終わってしまうからと、そんなのは勿体無くて嫌だと。  残念と思う反面、あまり自分が男とのセックスに慣れているところを諒陽に見せたくないという、どこか僅かに残っていた羞恥心が顔を覗かせ「諒陽のしたいようにしていいよ」と可愛い子ぶって降参してみせた。 「も……そこ、ばっか、り……っ」  執拗に胸の尖った部分ばかりを舐められ、噛まれ、ぐりぐりと指で弄ばれ、触られてもいないのに俺の中心はすっかり熱を持て余し、ぬるぬると先端を濡らしていた。もっと気持ちよくなりたくて自分で少し扱くがすぐに諒陽に手を掴まれ阻まれる。 「もっ……やだって、触って、もう……触って……」  涙を溜めながら懇願すると、力の入らない身体を簡単にうつ伏せにひっくり返された。シーツに自分自身が当たり口から勝手に甘い声が出た。もどかしくてまた手を伸ばしかけたが腰を上に引かれバランスを取るために両手をシーツに付く。腰を高くして四つん這いになった俺の後ろから大きな身体が覆い被さり太腿の間から熱く、硬くなったものを合わせられる。心臓が大きく跳ねた。  あの諒陽が今、俺でこんなに興奮しているのかと思うとあまりにも嬉しくて、幸せで、どうにかなってしまいそうだった。  もっと諒陽の熱を直に感じたくて腰を揺らし、わざと自分のと擦り合わせた。諒陽が小さく吐息混じりの声を漏らす。その艶っぽい声に思わずドキリとした瞬間、尻をふいに掴まれ「ひゃっ!」と自分の口から変な声が出た。 「このお尻の並んだホクロ……あの動画と一緒だ……」  何かに酔い痴れるように溜息をついた諒陽が満足そうに呟く。 「なに言って……」  呆れて振り返ろうとした途端、諒陽は急に腰を揺らし始めた。足を閉じらされ太腿と自身に諒陽の熱がぬるぬると擦って当たる。諒陽は右手で自分のものと俺のを包み強く握った。さっきとは桁違いの快楽に俺は声を押し殺せなくなっていた。 「あぁっ……、も……だめ……だめ……っ」  諒陽が激しく腰を揺らす動きに、強い手の動きが重なり俺は近い限界を感じた。 「だめ……っ、もう……出る……っ」  仕事ではそれなりにコントロール出来るのに、もう頭の中がグチャグチャで混乱して、ただもう吐き出したい欲望に支配されていた。びくびくと腰が痙攣すると諒陽の手をあっという間にねっとり濡らした。  シーツに顔をうずめ、少し呼吸を整えてから、涙目で後ろの諒陽を誘うと、優しい口付けが返ってきた。諒陽の舌先を甘噛みしてやるとやったなと言わんばかりに俺の舌を絡め取ってくる。上顎をねっとりと舐められ、だらしなく唾液が溢れる。頭の奥は痺れ、堪らなくなって俺は何度も声を漏らした。  身体の奥にある熱を帯びた狭い場所に諒陽の長い指がゆっくりと侵入してくる。  初めてされるわけでもないのに怖いくらい気持ちよくて、俺は思わず猫のように仰け反った。もっと深くして欲しくて自ら腰を揺らす。さっき俺が出したもので諒陽の指はぬるぬると楽に奥へと進んだ。確かめるみたいに中で指があちらこちらと器用に動く。あるところを掠められ、ビクリと俺の中が反応すると、諒陽は楽しい遊びを覚えたこどもみたいにそこを何度も執拗に責めた。 「――ここ、気持ちいいの?」  諒陽の少し意地悪い声が更に俺の性感帯を刺激する。 「うん、いいっ……。そこ、すき」  次第に中で動く指の数を増やされ、いやらしく音を立て、俺の中を這い回っては、何度も出入りした。 「中ぁ……っ、気持ちぃよぅ……諒陽っ……」 俺はすでに二度目の限界がきていた。執拗な愛撫に足先は痺れ、わけもわからず涙が出た。諒陽の指を逃したくなくて何度もそこで締め付けた。ずるりと指が抜かれ、俺のそこは寂しげにひくひくと戦慄き、内太腿が痙攣する。 「諒陽、ねえ、もっとして……」 「うん、……もう限界……中挿れたい……。真凰……」  切なく、湿った吐息混じりに名前を囁かれ、求められ、俺は更に堪らなくなった。胸が熱くて悲しくもないのに泣きたくてどうしようもない気持ちに襲われた。多分、ずっと泣いていた。  諒陽は俺の身体をゆっくり仰向きに戻すと瞼に口付ける。上目遣いで見つめた先にある深い瞳は優しく微笑み、俺だけを映していた。その頬を触ると大きな手が俺の手を包み、そこへまた口付けてくれた。  こんなに幸せなセックスを俺は知らない――。 「真凰――」 「うん、して?諒陽……」  先程よりさらに逞しくなったそれを俺にあてがう。少し触れただけなのに熱くてゾクリとした。諒陽の首に両手を回して俺は合図するみたいに小さく頷いた。腰を高く持ち上げられ、今まで諒陽に見せたことのない場所を開く。今更なのに少しだけ恥ずかしかった。こんな自分にまだこんな可愛げ気のある感情が残っていたのかとなんだか笑ってしまう。  はじめの前戯とは裏腹にくすぐったいくらい優しくゆっくりと諒陽は入ってきた。先端を挿れられただけで背筋に強い電気のようなものが走り、脊髄反射のように諒陽をきゅうきゅうと締め付ける。 「諒陽、諒陽……」  もっと中に来て欲しくて俺は無意識に腰を諒陽に寄せ、締め付けながらゆるゆると動かす。 「待って、ヤバイっ、ヤバイから!」  気の抜けそうな諒陽の慌てる声に我に返り力を抜いた。 ――ヤバイ、興奮シ過ギテマシタ。 「やっぱり、真凰は魔性のアナルニ……」 「もう!はやくしないと俺が上に乗って秒殺するぞ!」 「はい、スミマセン……ッ」 「ばぁか」  思わずふたりで顔を見合わせて吹き出す。ムードなんてお構いなしのそれは親友の頃となんら変わらない感覚だった。 ――俺たちは、あの頃からお互いに親友のフリをしていただけだったのだと、ようやく気付いた。  諒陽が俺を味わうように深く息を吐きながらもう一度、ゆっくり奥へと入ってくる。俺は応えるようにそれをゆるゆるとやさしく飲み込む。じれったくて、少し意地悪く腰を揺らすと、諒陽は堪らなかったのか、湿った呻き声を漏らした。その声に俺の中もびくびくと反応する。我慢出来なくなって強く締め付けると諒陽は声を漏らし、より一層深く息を吐き、一気に奥まで進んだ。 「ああ……あっ……」  自分の中に諒陽の全部が入っている。そのあまりの圧迫感と高揚感に果ててしまいそうになる波を堪えて俺は息を吐いて耐えた。自分の顔が熱を帯びてどんどん赤くなるのがわかる。 「――大丈夫?」  優しい諒陽の声が耳元でする。俺はそれに口付けて答える。 「諒陽……」  合図のように諒陽のものを強く締め付けるとそれに応えてくれたのか、より奥を貫かれた。無意識に上がる自分の嬌声に諒陽はますます興奮したように抽送を荒くした。何度も何度も深いところを貫かれ、頭の痺れがさらに強まる。初めての感覚に怖くなって手を伸ばすと熱い手が包んでくれた。 「だめっ……ああっ!激しっ……ああっあ……んんっ!」  諒陽は少し加減が出来なくなったのか、少し乱暴に深い場所を突いたり、俺のイイ場所を探るように中を巡り、見つけたら怖いくらいに何度となくそこを責めた。  俺はずっと、ずっとこれが欲しかった。  俺はずっと、諒陽に愛されてみたかったんだ――。 「諒陽っ……あ、ああっ、ダメ、イっちゃう……んんっ」  堪えていたものが限界にとうとう達して俺はそれらをすべて手放した。繰り返される深い口付けの中で俺は果て、何度も腰が痙攣しては断続的に射精した。諒陽はギリギリまで自身を抜くと、ふたたび奥へと突き上げた。俺は四肢を諒陽に絡めて全身で受け止める。中にいる諒陽自身がビクビクと震えたかと思うと、すぐに身体の奥へドクリと熱いものが注がれるのがわかった。  強く抱きしめられながら、名を呼ばれ、胸の奥がじんわり熱くなったのを感じて瞳を閉じた。  頰に暖かい涙が伝い、俺はそのまま意識を手放した――。  俺は遠くなる意識の中で「好きだよ」と何度も囁いた……つもりだった。諒陽には聞こえないくらい小さな声だったかもしれない。聞こえなくても構わない。ただ声にして、口にして言いたかったのだ……。  どこかで、ありがとうと聞こえた……気がした。 ――俺は夢を見ていたのかもしれない。  遮光カーテンが開かれ部屋中に光が差し込む。  強い日差しが瞼に当たり、俺は眉間に皺を寄せた。近付く足音とともに体が影に覆われ、薄っすら目を開けると、影の主がこちらを覗き込んでいた。 「いつまで寝てるんだ?そろそろ起きない?」  そういって俺の横に彼は腰掛け、微笑む。そのくったくのない笑顔が眩しくて、むず痒くて、その顔を真っ直ぐ見返すことができなかった。 照れて何も言えずにいる俺に、諒陽は優しくキスをして甘く囁く。 「――好きだよ、真凰」      穏やかな風が揺らす、あの桜の葉の音が聞こえたような気がした――。 ■END■

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