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【番外編】恋人の秘密《中編》
「言ってくれたらリクエストにお応えしたのに。俺ファンの人から怪しいもの結構貰ってたから特殊プレイもモノによっては許容範囲だよ?あ、痛い熱いはNGだけど――」
真凰は猫のように細く、しなやかな身体を仰け反らせ諒陽をベッドに組み敷く。
末恐ろしい事を笑いながらけろりと言われ、少しの目眩が諒陽を襲う。
「さっきみたいなのしたい?無理矢理からの〜合意ー、みたいなベタなやつ」
演じてる本人もベタだと理解してやっていたのかと諒陽は少し安心した反面、行為中でも冷静に芝居してみせる真凰を恐ろしいとも思った。
「――普通で良いです。普通で」
「え〜?サービスするのに〜」
「もう!いじめんな!」
絡みつくようにしなを作って話す真凰の身体を下から掻き抱き、今度は反対に諒陽が上を陣取る。
「やだ!俺は諒陽にお仕置きしたいの。俺の動画を内緒で見てオナニーしちゃうイケナ〜イ子に」
語尾をわざと卑猥な言い回しにして真凰は艶かしい眼差しを送りながら含み笑いする。卑猥なのは口だけではなかったようで手グセの悪い右手が開いたジーンズから覗く諒陽自身を手慣れた動きで撫でていた。
「待って、待て!だめ!」
犬でも宥めるかのように諒陽は真凰の右手を退かそうと抗う。真凰に主導権を持たせると諒陽の身が、いやもうはっきり言うとチンコ自身が持たない。明日は月曜定例会議なんですと必死に訴えるが、すでにメーターが振り切っている真凰が止まるはずもない。
「大丈夫!ちゃんと朝、起こしてあげるから〜」
「お前!そんなこと言ってこの前まんまと一緒に寝坊したよね?!もう信じないからね!」
「も〜!うるさい」早く黙れと言わんばかりに真凰は諒陽の口を自分の口で塞ぐ。
褒めてやりたいほど器用にその舌もその手もよく動く。そのせいか、さっき見た動画の中の真凰が一瞬よぎってしまう。真凰はその嫌な気配に勘付いたのか、唇を離してジッと真顔で諒陽を見つめた。諒陽は「なに?」と、どことなく誤魔化したように視線だけで伺う。
何も答えないまま真凰は視線の先を諒陽の下半身に移し、もう一度いやらしく指の先で撫でた。諒陽の肩がびくりと揺れる。
「ねぇ諒陽。諒陽のおっきくなったこのヤラシイおちんちんで真凰のアソコいっぱいにしてくれる?」
「ヒエッ?!」
イケメンで通っているはずの諒陽は今、それはもう情けない声と顔だった。大きな目玉がそこから溢れてしまいそうなほどに見開かれている。
「真凰の〜、いやらしい後ろのお口にいっぱ〜い中で出して、ぐちょぐちょに濡らして欲しいなぁ」
諒陽からはもう何の音も発していなかった。どこかのネジが外れショートしたんだろうと真凰は悟った。すっかりフリーズしてしまっている。
違う意味でカチカチになった諒陽の身体をけらけらと声を出しながら笑って抱き締める。
「ははっ、諒陽は言葉責め通じないんだね。ざーんねん」
「いやっ、あのぅ、その、こう興奮も一周回ると動けなくなるんだな、と」
「ナニソレ」と、明るく楽しげな笑い声が諒陽の耳を心地良くくすぐる。一日離れていただけなのに、すごく久しぶりにこの笑い声を聞いた気がして諒陽は素直に感動してしまった。
そのせいか、思わず「ヤバイ」と口を衝いて出た。
「え、なに?」と諒陽の肩に頭を置いたまま、すぐそばにある顔を真凰は見上げた。
「俺――真凰のことすごく好きだ」
真顔でそう告げられ、今度はすっかり真凰が黙り込む――。
おかしなことを言っただろうかと諒陽は少し頭を起こし、ちらりと不安げに真凰を見てすぐにギョッとする。
「なッ!なんで泣いてんの!!」
「うううー、わかんない〜〜」
小さな子供が転んで膝でも擦りむいたかのように、事の自体を把握しようと一瞬妙な間が空いた後、真凰はボロボロと急に泣き出した。
諒陽は思いもよらなかった真凰のリアクションにひたすらに狼狽えている。
「お前、そこは俺も好きって言うとこだろ?泣くなよ〜!」と真凰の背中をあやすように一生懸命さすりながら諒陽は嘆く。
「諒陽〜、あのね、俺さっきね、ただいまって言うのね、忘れてた。ただいまぁ〜」
「ああ、うん。おかえりなさい。お疲れ様でした」
今?今それ?今大事なのはそこなの?と諒陽の内心はガタリと崩れ落ちていたが表には出さないでおいた。
「今日……、から俺は、本当の本当にっ、諒陽だけのもの……です。末永くよろしくっ、お願いっします。大好きです」
泣きながら紡いだ言葉は途切れ途切れで酷くヨボヨボだったけれど諒陽にはこれ以上ないくらいの愛の言葉に思えた。
6年間空洞だった諒陽の心の穴がじんわりと満たされて行くのがわかった。真凰の涙が自分にも思わず伝染しそうで誤魔化すみたいに大きく笑ってみせる。
「こちらこそ。よろしくお願いします!」
見つめ合ってゆっくりと交わした口付けは、まるで誓いのキスみたいだと諒陽は思った。同じようなことを真凰もポツリと漏らしたので二人はどちらともなく吹き出して、最後はお互いに笑い合った。
あの遠回りした6年があったからこそ、こうやってお互いを深く思い、慈しみあえたのかもしれないと、諒陽は前向きに考えた。
――過ぎた時間に後悔などもうしない。
諒陽はそう心に決め、もう一度誓いのキスを真凰と交わした。
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