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第9話
男二人、静かな部屋の中でテレビ画面の中の他人の情事を見ていると、得も言われぬ気持ちになる。
『あ、、んっ、、、いいっ!』
艶やかな嬌声が、気持ちを盛り上げるどころかなんだか滑稽で、物理の宿題だとか、週末の練習試合のことだとか考えると、今のこの瞬間が無駄な時間に思える。
他人の情事より、現実を見たいと思っていると、千尋がそれに気づいたのか顔を覗き込んで来る。
「つまんない?」
端正な顔が、鼻先がくっつきそうなくらいに近づいて来て、思わず顔をしかめる。
「興奮もしない?」
その言葉にお互いの視線が下半身に集中するが、着衣の上からでは判断がつかなかった。
「触ってもいい?」
千尋の問いかけに軽く頷くと服の上から形を確認され、その指の動きで硬度が増した。
「反応してる」
「お前が嫌らしく触るからだ」
「AVは興奮しないの」
「んー、よく知らないヤツがわけわかんないことしてる感じ。なんか別に楽しそうじゃないし……んッ、…」
ぎゅっと根元を強く握られ、声が上ずる。
やめろと声をかけようとすると、千尋が哉太の上にのしかかった。
「え、何してんの、、」
「いや、なんか、俺の方がヤバくなってきた。カナがエロいの見て、触られて感じてるとかさ」
「事実の解釈に誤りがあるだろ、それ」
呆れたように呟き前髪をかきあげると、少し顔を赤らめた千尋が哉太を見下ろしていた。先程までとは異なり、その瞳が情欲にまみれている。
「カナさ、さっきどういう時にキスしたいか聞いたよね」
「ンッ……千尋、手がヤラシイ……ッ」
「今。今したい。カナは?」
捕食者の瞳に捕らえられ、身体の芯に微弱な電流が走る。
いつのまにかベルトもファスナーも取り外され、入り込んだ大きな掌が完全に立ち上がった屹立を握りこんでいた。
湧き上がる官能と情欲。
声が上がらないように眉間に皺を寄せるとそこに千尋の唇が触れた。
「カナ、キスしたい?」
あと少しで唇が触れる距離にあるのに、触れ合わない。
いつもそうだ。千尋は、哉太が要求するまで何もしない。いつも、いつも。
「なんで……いつも……」
「ん?」
ぐちゅぐちゅと嫌らしい音が耳につく。自分が要求しなければずっとこのままの状態で、生殺しの快楽を与えられ続けると思うと、何も言わずに命令をした方が楽だった。
千尋がなんでこんなことをするのか、なんでそれを自分が嫌がらずに受け入れるのか。
「カナ、言って」
「……….…キスしろ、千尋」
余裕のない口づけを交わしながら、快楽を貪った。
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