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第10話
バスケ部員の追試も無事に合格に終わり、いつも通り部活と勉強に明け暮れる毎日が始まったのは、明日を練習試合に控えた金曜日のことだった。
ボールと触れ合わなかった日はないが、やはり練習試合と言えども試合前にほとんど練習が出来なかったことは哉太にとってもチームにとってもかなり痛手だった。
ただ、久しぶりの練習ではあったが、バスケが出来なかったストレスからか、部員もやる気に満ちていたし、チームワークも悪くなかった。
「哉太、モップ掛けたら一緒に帰ろうぜ」
部活後に軽く自主練をし、そろそろ帰るかと片付けを始めると、同じように自主練をしていた裕紀が声をかけてきた。
軽そうな見た目とは異なり、バスケには真面目な裕紀は大抵片付けも手入れも手伝ってくれる。
「途中までな、今日、スーパー寄って帰る」
「どこの主婦だよ」
「お前も一人暮らしすればわかるって。コンビニばっかだと飽きるし、作った方が安い」
「滝沢が飯作ってんじゃねーの」
「大抵は、な。それでも買い出しには行かないといけないんだって」
「そういうもんか」
2人でモップ掛けをし、部室に戻る。
バスケ部員はすでに哉太と裕紀を残し、皆帰宅した後のようであった。
「そういえば、裕紀、これ返す」
制服に着替えようとロッカーを開けると、先日裕紀に借りたバッグを見つけ、裕紀の胸元に押し付けた。
あの日以来、部活が再開したら返そうと部室のロッカーの中に入れたままだった。
「おー、どうだった?」
「どうって別に」
「なんだよ、兄貴にも借りた秘蔵のコレクションだぜ。抜けただろ」
「ふつー。あぁ、でも千尋は勃ってたな」
あの日の情事を思い出し、思わず千尋のことを口に出すと、裕紀が顔をしかめる。
「なに、滝沢と一緒に見たの」
「そー。なんか流れでそうなった」
「滝沢なんか、こういうの見そうもないのにな。彼女切れたことなさそうだし……あぁ、でも今オンナ断ちしてるんだっけ」
裕紀の口から哉太の知らない千尋の話が出てきて、思わずシャツのボタンをとめる手をとめた。
「オンナ断ち?」
「そう、なんかクラスの女子が騒いでたんだけどさ、今告白全部断ってるらしいよ。滝沢って切れ目なく彼女いただろ。来るもの拒まず去る者追わずで。それが来る者拒んでるから女子たちが色々噂してる」
「ふーん、そうなんだ」
「他人事みたいに……。だからお前らが付き合ってるとか言う噂が出てんだろ」
裕紀に言われ、なるほどその流れか、と合点が行く。昔から一緒にいるのになぜ今頃になってそんな噂がではじめたのかあまり理解ができていなかった。
「まぁ、もう一個は前の彼女が忘れられないって説だけど。こっちの方が有力みたいだけどな、ホラ」
裕紀に促され、部室の窓から見える校門を指で示される。
そこには千尋と、小春がいた。
「アレだろ、前の彼女」
2人で連れ立って校門から出て行く。
身長差があって、美男美女で、千尋がさりげなくエスコートしている。どこからどう見てもお似合いの2人だった。
「何で別れたんだろうな、哉太聞いてないの?」
「さぁ、聞いた気もするけど忘れた。裕紀、帰ろうぜ」
リュックを背負い、バタンとロッカーを閉める。
普段通り声をかけたような気がしたが、少し裕紀が不思議そうな顔をしていた。そこで気づいた。いつもと同じがどんな感じであったのか、何故だかわからなくなっていた。
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