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第11話

練習試合は案の定、惨敗だった。 技術的な問題というよりも、明らかにスタミナが足りず練習不足が目に見える形で現れていた。 あまりのだらしなさに、試合後監督から怒りのトレーニングメニューが飛んできたが、それすら文句を言えるような状況になく、みんな大人しくメニューをこなしていた。 「わかってはいたけど、悔しいな」 鬼メニューをこなし、それでもなんかだかやり場のない感情の行き先に自主練をしていると裕紀がポツンっと呟いた。 「そういうなら、次は勉強も頑張れよ」 「そうだよな、来年は俺らも受験生だしな」 裕紀に言われ、思い出したくない現実を思い出す。 「裕紀、進路決めた?」 「何にも。どうせなら東京の私大とかで可愛い女の子いっぱいいるとこがいいけどさー、無理だろーな。親は国立行けって言うだろうし」 「いいじゃん、国立」 「え、何。哉太、まさか地元の国立希望?」 「まだ決めてない。法学部あるとこにはする」 「数学あんだけできるくせに文系かよ」 「うるさい。どの分野でも論理的な思考がマスターするための近道だ」 ゴールポストに向かい、手にしていたボールを投げる。綺麗な弧を描いてネットを揺らした。 今日の試合でもうまく決まれば良かったのに。そう思っていると、体育館の入り口の向こう、グランドの先に見知った姿を発見した。 「千尋……」 名前を呼んだ先、その横に誰かがいることに気づく。黒髪で、毛先を軽く巻いている女の子。 「あ、、滝沢と小春ちゃんだ。やっぱヨリ戻したのかな」 もう一度、手にしたボールを投げると今度はネットにかすりもせずに隅の方へと転がっていった。 「下手くそ」 裕紀に笑われる。 悔しくてもう一球放ってみたが、ネットを揺らすことはなかった。 ### 「なに見てんの」 千尋の作った弁当を平らげ、ぼんやりと窓の外を見ていると、一緒に飯を食っていた雄大が声をかけてきた。 「別に」 表情も変えずに答えると、雄大が苦笑する。 「別にって顔じゃねーし、別にっていうもん見てないじゃん」 雄大の大きな手が、哉太の長めの柔らかい髪をぐしゃぐしゃとかき混ぜる。 「ヨリ戻したの?あれ」 連れ立って歩いている千尋と小春を指差し、雄大が尋ねた。 次の授業に使うのか、何やら大掛かりな荷物を持っている二人をみて、そういえばあの二人は同じクラスで、サッカー部の部員とマネージャーで、家もそこそこ近いことを思い出す。思ったよりも接点の多い二人だから、何かと一緒になるのかもしれない。 「知らない」 「お前らいつも一緒にいるのに、そういう話しねーの?」 「しない。大抵、一緒に勉強するか、ゲームするか、寝てるかだし。この間だって、初めて千尋がエロい動画とかエロい本とか見てるの知ったくらいだし」 「何それ、逆になんでそんな話になったんだよ」 雄大が興味津々に身を乗り出して尋ねる。 「裕紀にエロ本とか押し付けられてさ。それで、そういう話になった。アイツ、今までそういうこと一切言わなかったからまったく知らなかった」 「いや、でも普通見てるだろ。俺らくらいの歳だったら」 「…………俺見たことなかったし」 顔を赤らめ、真実を告げると雄大は困ったように天井を見上げた。 「それは、なんというか、千尋が悪そうだな。なんとなく」 「だから、千尋の彼女の話とかあんましない。付き合ったとか、別れたくらいは聞くけど。……それに、ヨリを戻すのなんて今までなかったし」 雄大は中学時代からの付き合いだからか、千尋の女性歴を思い出し、そういえばそうだな、と呟く。 千尋と小春が校舎内に足を進め、その姿が見えなくなったのを確認してから哉太は口を開いた。 「もー、潮時かもな」 「なにそれ」 「千尋には千尋の人生があるし、俺にも俺の人生がある。いつまでも仲良しこよしはやってらんないよな」 「、、、そう?俺は、お前ら二人はずっとこのまま一緒なんだと思ってたけど」 「ただ幼馴染なだけだからさ。まったく関係なしとはならないと思うけど、進路だってどうなるかわかんねーし、ずっと一緒はねーよ」 自嘲気味に笑うと、もう一度雄大が哉太の髪を触った。 「哉太、やっぱ寂しいんじゃねーの。今日、いつもよりよく喋る。ま、寂しいならしばらくは俺が相手してやっから。今日、帰りにゲーセンでも行く?」 「部活あるから行かねーよ」 「だよな」 はは、と笑われ、哉太もつられて笑った。

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