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第94話Tells②ー遥人ー
聡志が…武田に吸収された組の…?そういえば吸収された組の名前はちゃんと聞いていなかった。まさかそんな所で繋がっているなんて思いにもよらなかったから。
「ていうことは、双木くんは…」
「ああ…恐らく、今頃は」
「なに…二人が一緒にいるの知ってたの?」
「呼び止めたんだが、逃げられてしまって…」
ガッと彼の胸ぐらを掴む。自分よりも少し大きいからあまり意味は無いのだけれど、思わず手が出てしまった。
「どうして追いかけなかったんだよ!!」
「…俺は、もうこんなことには関わりたくない。父のようにはならない!決めたんだ…」
「ふざけんなよ…勇也に何かあったらどうしてくれるんだ!!」
「ゆうや…?双木のことか?」
つい名前で呼んでしまった。しかし今更もうそんなことは気にしていられない。胸ぐらを掴んでいた手を乱暴に離す。
「それってさ…つまり聡志は俺が目的ってことだよね」
「まぁ、そうだろうな」
「俺のせいじゃん…今日学校に行ってればこんなことには…」
「お前ばかりが悪い訳では無い。元はと言えば親同士がああやって繋がってしまったのが良くなかったんだ…」
「……聡志のとこ行ってくる」
「行ってどうする気だ!!お前がどうなるかわからないんだぞ?」
「は?…じゃあ勇也が危ない目にあってたら…お前、責任取ってくれんの?」
「そ、それは…」
自分でも制御がきかないくらいに怒りが募っていた。口調も表情も思い通りにいかない。
勇也…俺のせいで。ただでさえ俺が酷いことばかりしてしまったのに、これ以上苦痛を与えるというのか。
自分が許せない…そして、自分以外の奴に勇也が傷つけられるのも、苦しめられるのも絶対に許さない。勇也を苦しめるのは自分だけでないとダメなんだ。
あの表情も涙も身体も、苦しみも…全て俺のものだ。
勇也は嫌がるかもしれない。拒絶されるのは怖い、それでも他人に渡すわけにはいかない。それに、勇也にはたくさん謝らなければならないことがある。
「俺は行くよ…勇也のこと取り返してくる」
「何処にいるのか分かっているのか」
「なに、手伝ってくれるの」
「そのつもりは無い…」
そうか、聡志の家にいるとも限らない。となると、町外れのどこかか?しかしそんなに人気がないところなどあっただろうか。そもそも聡志の家自体行ったことがないしどこにあるのかでさえ微妙だ。
「電話かけたら出るかな…」
「いや…いくらあいつがアホだからといってそう簡単には…」
スマートフォンで聡志の連絡先を表示し、電話をかけた。すると、3コールほどで通話中の画面に切り替わったのがわかる。
「あ、出た」
「本当か?!」
「おい聡志、今すぐどこにいるか答えろ!どういうつもりだ!!おい!聞いてんのかクソ!!」
『ちょ、うるせえって!!』
「双木くんのこと、人質にでもとってるの?」
『なんだよ、ようやく気づいたの?双木なら今……』
「今すぐどこにいるのか答えろ!!」
『だからうるさいっつーの!!話聞けよ!』
「早く答えないとお前のことぐっちゃぐちゃにするよ」
『待って怖い!じゃなくて…えっと、まだお前に来られたら困るから、場所は後で言う!!』
「はぁ?んなもん待ってられっかよ今すぐ教えろクソ野郎!!」
『今は教えねえっつってんだろ!』
「勇也…双木くんは?」
『何ともないよ…今のところはね』
「余計なことしたらただじゃおかないから…で、どこにいるの?」
『だから今いるのは…って、言わねえからな!!ふん…お前達は〝行っちゃいけない〟所だよ』
「てめぇの首へし折られたくなかったら言え!!」
『…そ、そういうことだから!じゃあな!助けに来るなら後でな!!』
「おい!!…チッ、切りやがった」
電話が切れて、呆然としていた謙太がようやく口を開いた。
「お前…そっちが素なのか?」
「はぁ?なんの話?」
「いや…まぁいい、真田はなんと言っていた?」
「だめ、聞いても何も答えなかった。あーしかも勇也スマホ家に置いたまんまじゃん…」
「なぜ分かるんだ?家にいないのに…」
「GPSだよ。勇也のスマホから位置情報が俺のスマホに来るようになってんの」
「それ…あいつは知って…?」
「そんなの言えるわけないじゃん…クソ…〝行っちゃいけない〟所ってなんだよ」
俺がそう呟くと、謙太にガッと肩を掴まれる。
「〝行っちゃいけない〟…真田がそう言ったのか?」
「え、ああ…そうだけど」
「そうか…うん、恐らくそうだろう」
「なに、なんか知ってんの?」
「小中学生のころ、〝行ってはいけない〟と学校からよく言われていた廃工場があった。確か、真田が今住んでいるところからもそう遠くない」
「謙太くんって、聡志とどういう関係なの?家繋がり?」
「中学から同じなんだ。父親同士は知り合いだが、それは後から知った話で…その廃工場に、昔よく行っていた」
「案内してくれる?」
「でも、俺はもう…」
謙太は拳を握って顔を逸らす。こいつがいないと場所がわからないし、今はこんなところで時間を浪費している場合ではない。
「俺一人で乗り込んでもいいけど、最悪聡志の息の根止めるよ」
「それは駄目だ!」
「案内して、俺のストッパーだけでもしてくれればいいよ」
「しかし…一人で乗り込んで相手が複数人だったら!」
「いくら俺でもちょっと厳しいかもね」
「お前がどれくらいの強さなのかは知らない。俺も、こんなことはもうしないと決めていたのだが…今回だけは話が別だ」
そう言って部屋を出ていこうとするので、慌てて引き止める。
「え、ちょっと、今手伝ってくれる感じだったじゃん」
「ああ、だから今回だけは手を貸す。部屋から木刀を持って来ようと思っていたところだ」
「木刀って…それ大丈夫なの?」
「相手がどういう戦法でくるかは不明だ…木刀があれば不足はないだろう」
こいつはそういう感じなのか…意外と喧嘩もしたことがあるのだろうか。
「じゃあ、連れていってもらえる?」
「ああ、しかし二人だけで大丈夫だろうか。不本意だが父に連絡をいれた方が…」
「うーん…なんとなくこれは聡志の独断でやってる気がするんだよね。大人が介入してるようには思えない。だから、これは俺達の間だけでケリをつけるべきだと思うよ」
「そういうものなのか…だがもしも相手の人数が十数人だったら…」
「その数はまあ想定内かな…こっちの人員に関しては宛があるから連絡入れておく。君も準備してきて」
「ああ、わかった」
待っててね、勇也
勇也は俺なんかに来て欲しくないかもしれない。それでもこのままにはしておけないんだ。
どうか無事でいて欲しい。もしも勇也が痛めつけられたり、乱暴されていたらどうしよう。それをやった相手を本当に仕留めてしまうかもしれない。それくらい、勇也は自分の中で大切だった。
あの時のことも謝らなければならない。本当は抱きしめてキスをしたいけれど、それはきっと許されないだろう。
本当に反省をしているつもりだし諦めた気になっていたけれど、支配欲は増す一方のようだった。前までは誰かに執着するなんてことなかったのに、どうしてこんなにも彼のことを好きになってしまったのか。
抱いた女の顔も声も匂いも何一つ覚えていないのに、勇也のものは全て消えずに残っている。昨日何も食べられなかったのも、勇也の作った料理が忘れられないから。
風邪をひいたあの日、僅かに口元を綻ばせた顔。初めて見た彼の笑顔だった。
一挙一動全て愛おしい彼を、手放したいだなんて思うはずがなかった。
死んでも彼を取り戻そう。そう一人で誓ったのだった。
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