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第104話Meeting
「だからやめろって言っただろ!!」
「ごめんってば〜走れば間に合うから大丈夫大丈夫」
今、俺とハルは学校に向かって走っている最中だ。委員会の会議が始まるまであと5分…俺たちは二人揃って寝坊した。
というのも…遡ること12時間前。
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「勇也〜一緒に寝よ」
「はぁ?何でだよ…嫌だ」
「え…てっきり快諾してくれると思ってたんだけど」
「お前変なことするだろ、だから嫌だ」
「テスト勝ったのに…」
「それ持ち出すのやめろよ…しょうがねえな、ぜってえ何もするなよ」
「わかってるって〜」
そして何もしないことを条件にハルのベッドに入ったのだが、早速後ろから抱きついて腰を撫でられた。
「てめぇ、また嘘つきやがっ…て、ぁ…馬鹿、やめろ…っ!」
「別に変なことしてないでしょ?」
「こういう…ことの事、言ってんだよ…んっ」
「普通にしてるじゃん。勇也が勝手に変な声出してるだけで…」
「あ、した…会議、だから、やめ…あっ」
腰を撫でていた指が、骨盤の辺りを指でぐりぐりと刺激する。
「大丈夫だよちゃんと起きるから…寝たいなら寝れば?」
「ん…じゃ、あ…触んな…あっ…ん…」
「触るのはいいって言ったよね?これだけでもう感じてるの?」
「馬鹿…ばかぁっ…!」
「可愛い…好きだよ、勇也」
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こんな具合で、外が少し明るくなるまでそれは続けられた。
起きた時には9時半になっていて、10時から始まる会議にギリギリ間に合うかどうかという時間だったのだが…
「お前が訳分かんねえこと言うから今走るはめになってんだよ!!」
「朝勃ちってなかなか収まらないんだよね〜」
放っておけばいいものを、俺の顔を見ながら抜くと言い始めてそれで20分ロスした。その間は俺も離してもらえず、今こうして二人仲良く遅刻しそうになっている。
全速力で走って学校についた。時間は59分…会議室まで30秒で走ればギリギリセーフだ。
二人同時に会議室の扉を開けると、既に集まっていたメンバーは全員こちらに注目した。ハルを見て女子の何人かは黄色い悲鳴をあげる。
また、ひそひそと俺のことを見ながらなにか話しているようだった。
委員会が違うので、別れてそれぞれの席に着く。
10時ちょうどになった時、少し静かになり始めた会議室に一人の生徒が駆け込んできた。
「すいません!!数学の補講で遅れました!」
息を切らせて走ってきたのは真田だった。生徒会の役員が「大丈夫ですよ」と言って席に着くよう促す。
「双木…ちゃんと来たんだ」
「来ちゃ悪いかよ」
「いや、てっきりサボるのかと…」
真田とは、前よりも普通に話すようになった。しかしコソコソと二人で話していると、やけにどこかから視線を感じる。異様な厚を感じてそちらを見ることが出来ない。
すると、生徒会長らしき人物が立ち上がって話を始めた。
「皆さんこんにちは!ご存知の人も多いかもしれないけど、私は生徒会長の北条 政美です。バレー部の部長もやってます。会長とか、マサミちゃんとか、好きなように呼んでください」
やけにハキハキと元気よく話す。本人が言った通り女子バレー部の部長で、彼女もまた表彰や挨拶で壇上に立っているのを見たことがある。
典型的な生徒会長タイプではなく、活発そうなショートヘアに凛々しく整った顔立ち 、バレー部とだけあって身長は俺と同じくらいあるのではないだろうか。そして分け隔てがなくサバサバした性格が沢山の生徒の信頼を集めているらしい。
「ここに集まっているのは私たち生徒会役員五名と、一年生の文化祭実行委員十六名、風紀委員の代表三名の、計二十四名です」
やはり周りからも「こんなに人集めてどうするの?」という声が上がっている。わざわざ分けた必要性はどこにあるのだろうか。
「今年から文化祭の運営は生徒会メインだったものから、生徒会と実行委員の2,3年メインに変わります。なので役割を分けて、私達生徒会は主にこちらの方で指揮を執る形になりました」
にこやかに話しながら、会議室内にいる生徒の顔をぐるっと見渡す。
「それで、風紀委員が一人来ていないみたいだけど…風紀委員長、何か知ってる?」
その言葉が向けられた先にいたのはいかにも堅そうな男で、先程から俺のことをじっと睨みつけていた。
『ああ、今年の風紀委員は二年生にやる気がなくてね、誰も副委員長をやりたがらないから一年生から二人出てもらったんだ。一人はこちらの小笠原くん、もう一人は剣道部の上杉くんだ。今日は練習で来れないと言っていた、連絡が遅れて悪かったね』
凄いセリフ量をペラペラと早口で話す。というか、上杉も風紀委員だということは知らなかった。
呆気に取られていると、その男はまた俺を睨み始める。
『それにしても生徒会長、彼のような風紀を乱す生徒がいていいものだと思うか?』
立ち上がったかと思うとビシッと指をさされる。ああ、そういえば俺はこんな身なりだったなと今更思い出す。
「ん〜まぁ確かに見た目は派手だけど害はなさそうだし、聞いたところによると頭もいいみたいだからそんなに気にしなくていいんじゃない?」
なるほど、生徒会長が生徒から慕われる理由がなんとなく分かった。しかしまだ怒りが収まっていない様子の風紀委員長は、また何かを言おうとしている。すると、ハルが風紀委員長の袖を引っ張っていた。
「風紀委員長、ちょっと」
『…小笠原くん?一体何を…』
「耳貸してください」
何やらこそこそと耳元で話しているのが見える。あいつは何を言うつもりなのだろうか。
「…っていうことなんですけど、いいんですか?」
『!!!…わ、わかった…すまなかったね、皆…もういいよ』
本当に何を言ったんだ…風紀委員長は顔を真っ青にして座ってしまった。
「えっと…続けていいかな?それで、今回このメンバーにやっていただくのは…『演劇』です!」
周りにどよめきがはしる。それを宥めるように、会長が言葉を続けた。
「っていうのも、うちの学校では毎年演劇部が演劇を上演してくれてたんだけど__」
『じゃあ今年も演劇部にやってもらえばいいじゃないですかぁ』
『そうですよー』
「それがね、今年は演劇部の役者陣が文化祭で公欠することになってるの。なんでも、有名な講師のワークショップがあるらしくて役者は強制参加なんだって。だから、今回は私達が代わりにやることになりました」
『でも、それってわざわざやる必要なくないですか?』
『うん…演劇なんてやったことないからできないし』
『劇って準備とか凄く大変なんでしょ?』
口々に生徒が好き勝手話す。文句を言っているのは全て一年生の実行委員達だ。
「うん…皆が言いたいこともわかるよ。でも、文化祭の一般公開の日に一回だけ大きな劇を体育館でやるっていうのはうちの伝統なの。まだうちに演劇部が無かった時は、こうして役員達が劇をやってたんだって」
周りの生徒達は段々と口を閉じ始めて真剣に話を聞くようになった。
「それに、今年から生徒会の負担も実行委員の上級生が分割してくれるし…折角だから、私はこの学校の伝統を守りたい。演劇部さんからもそうお願いされてるの。劇に反対する人は、手を挙げてください」
流石にこれで手を挙げる生徒はいなかった。皆、会長の言葉に納得したのだろう。
生徒会の書記が、ホワイトボードに『文化祭 演劇』と書いて、会議が始まる。
その後プリント資料と台本が配られ、台本には『ロミオとジュリエット』と書かれていた。
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